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第二十一回 海と光

5年生の「でこぼこの絵」(日本文教出版 図画工作5・6上 p.32-33)を基にした題材です。薄い板材を切ったり重ねたりしながら、思い付いたことを絵に表すものです。毎年、6年生で行っています。

 

 

思いのままに切る

 

 図工の時間には、思いのままに、身体のままに、気持ちのままに、ということを大事にしています。

 

 えがくようにして板を切るのは心地よいものです。そこから生まれてくる思いがけない形のよさや美しさを発見してほしいと考えるからです。下がきをしないで切ってみることを提案しましたが、板を組み合わせて表しながら、思いに合う形に切っていくことも大切にします。

 

 6時間で表すプロセスの中で、様々なでこぼこを生み出す活動(切る、磨く、重ねる、彫る、塗る)は、自分の思いに合わせて選んで進めていくように題材を手渡しました。また、塗った板は乾燥させてから切ったり彫ったりするよう、安全な扱いの段取りも考えるよう伝えました。

 


 Mさんは、電動糸のこ機に大きな板をのせると、ゆるやかな曲線をつけながらゆっくりと切り始めました。小さくなった板材を基底材の上でほんの少しずらしてできる隙間を面白いと感じています。次に、角度をつけて切ってみると、新しい隙間の形が表れました。

 

 

動かしながら考える 

 

 紙やすりで板を磨くと板の木目がきれいに現れ、切り口もなめらかになり、木の温かな感触を味わうことができます。Mさんはほとんど無言で、板を切る、磨く、動かすことを繰り返していきました。

 

 次の週、Mさんは木工塗料を水で薄め、淡い青や黒を混ぜながら刷毛で基底材に塗っていきます。木工塗料は水で調整して塗ると、木目が浮かび上がるように見えてきます。前時に切った板材には濃い木工塗料で黄色、少し黒を混ぜた黄色、黒、青などを塗っていきました。気持ちよさそうに色を塗っているMさんは、この時、「海」にしようと考えたようです。その後も、基底材の上で何度も板をずらし、置き変え、でこぼこの形のよさや美しさを感じ取りながら、どう組み合わせようか考えていました。

 

 Mさんが電動糸のこ機で切った形、彫刻刀で彫った線はシンプルでゆるやかなものです。でも、板を動かし、並べ方や重ね方を変えて組み合わせることで、大きな海のうねりを感じさせるような動きをつくりだしました。私は、完成したMさんの作品に惹きつけられました。何と美しいのでしょう。黒とわずかな色味を使いながら、このように美しい構成で海と光を表すとは。かなわないなあと感じました。

 

 海が好きだと言うMさんは、祖父母の暮らす北陸、石川県の海によく行くと話してくれました。七尾のあたりだそうです。偶然にも私の故祖父母も石川県でしたので、嬉しくなりそのことをMさんに伝えました。私は越前の海です。日本海ならではの深く、少し暗く荒い、光を受けると眩しく光る海です。私も幼いころから北陸の海に触れてきました。Mさんの作品「海と光」に私の原風景が重なりました。

 

 

「海と光」

 

以下は、Mさんが作品に寄せたコメントです。

 

青、黒、黄は私の好きな色。

土台に青をぬった時、海にしようと思った。

板を動かして並べ方を考えていくと、波の動きが出てきた。

彫刻刀の線は、海流や波の動きを表している。

夕方あたりの海。

 

光は上の方へいくほどやわらかくなっていく。

 

 

 


材料・用具

児童:筆洗バケツ、筆拭きタオル

教師:基底材となるラワンベニヤ(45×45㎝、30×60㎝の2種類から選べるようにした)、シナベニア(A3サイズ1枚)、木工塗料、木工用接着剤、電動糸のこ機械、紙や すり、彫刻刀、刷毛、容器

 

  

 

《海と光》(45×45㎝)6年生 Mさん
《海と光》(45×45㎝)6年生 Mさん

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コメント: 2
  • #1

    ふくざき あや (土曜日, 12 3月 2022 14:56)

    思いのままに、身体のままに、気持ちのままに…子どもが表現を開いていく姿を、思い浮かべてみました。

    えがくようにして板を切る心地よさを感じながら、下がきをしないで切ることを、決まりではなく提案する。「はさみのアート」から、振り返ってみました。

    鈴木先生の原風景が重なったような、子どもの表したことに共感したり、美しいと感じたりする気持ち。時間はどんどん早く流れていってしまいますが、日常の中で自分自身がいろいろなことをていねいに感じながら、大切にしていきたいです。

  • #2

    図工のみかた編集部 (月曜日, 18 4月 2022 14:56)

    ふくざきあや様

    コメントありがとうございます。

    >「はさみのアート」から、振り返ってみました。
    弊社の題材を十分にご覧いただきましてありがとうございます。
    図工においてもそうした学びの積み重ねによって、表現が深まっていくんでしょうね。

    >日常の中で自分自身がいろいろなことをていねいに感じながら、大切にしていきたいです。
    本当にそうですね。
    我々大人が日常のいろいろなことを丁寧に感じ取っていくことで、子どもたちの表現のよさを捉えるのとができるんでしょうね。
    授業というとどうしてもオフィシャルな自分を前に出していきそうですが、表現はパーソナルなものですし、先生もパーソナルな部分で受け止めていくことが、子どもの表現をひらいていくのかな、と思います。

    引き続きよろしくお願いいたします。