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第九回 きれいな海にサメがきた

きれいな海にサメがきた
きれいな海にサメがきた

2年生の「ざいりょうから ひらめき」(日本文教出版 図画工作1・2下 p.46-47)を基に、「お花紙と絵の具と・・」に編み直した題材です。材料の形や色、触れた感じから、思い付いたことを表すものです。

材料を京花紙20色、液体のり、共用の絵の具に絞りました。基底材は片面が白い段ボール(45×45㎝、30×60㎝)です。材料をシンプルに絞り、試行錯誤して思いを実現させてほしいと考えました。

 

 

 さわりながら思いつく

 

 図工室の机に並べて置かれた20色の京花紙。上にのせてある軽い積み木を外して、1枚ずつ優しく取ります。側を歩くだけでふわりと舞うほどに軽いからです。子どもたちは好きな色を選び、光に透かしたり、顔に当てたりしてお花紙の心地よさを感じています。白い段ボールの上で、並べて重ねたり、そっとやぶいたりして生まれてくる形や色から表したいことを見付けていきます。

 

 さんは、最初に大すきな黄色のお花紙を選びました。白い段ボールの上に置いて液体のりでお花紙の上からぽんぽんと押し当てるように貼ります。自分が思ったような黄色には感じられなかったのか、次も、またその次も、黄色を重ねていきました。ずいぶん厚みが増して、はっきりした黄色になってきたところで、「そうだ、ぼくは海がすきだから、海の絵にしよう」と言って、青や水色のお花紙をそっとやぶいて重ね、ずらしてみては海や空の感じを探しています。

 

 

 

「お花紙が次の絵の具の色を誘ってくる」

 

画面上の方の赤いお花紙は、初めは正方形でした。太陽を表したのでしょう。でもIさんはその上に黒や白の絵の具をぬって半分隠しました。その上からさらに白や薄紫のお花紙をのせると、絵の具がすうっとにじみ出て、お花紙が張り付いていく感覚が面白くて、絵の具でかいたり、お花紙を重ねたりする行為を繰り返しています。

 

数年前にこの授業をした時、2年生のある子どもが「お花紙、絵の具、お花紙・・・と繰り返していくと、お花紙が次の絵の具の色や形をさそってくる感じがする」と話してくれたことを鮮明に覚えています。きっとI君も同じ感覚を味わっているのかなと、見守りました。最後に白や水色で絵の具を弾き飛ばして筆をおくと、「できました!」と私に見せに来てくれました。その時の、すがすがしい表情をとても眩しく感じました。

 

 

 

「きれいな海にサメがきた」

 

Iさんはこの作品に「きれいな海にサメがきた」というタイトルをつけました。「サメがきたの?」と尋ねると「そう、イルカはもういないから。ここはイルカ浜(伊豆)で、小さいころからよく行く。昔はイルカ漁があったとおじいさんから話を聞いたことがある。でも今はいないんだ」、「黄色をたくさん重ねたのはその砂浜なのね」と聞くと、Iさんは「前にこの砂浜で、知らない子と友だちになって、この砂をほって遊んだことがあってね、ほっても、ほっても砂は深かったよ」と話してくれました。とてもきれいな海に、晴れていたのに急に暗い雲がでて、雨がふってきたことを表したのでしょうか。

 

Iさんが心や身体をいっぱい働かせ、これまでの経験や記憶ともつながり生まれたこの作品から、私はまだ見ぬきれいなイルカ浜の海に想像をたなびかせています。

 

きれいな海にサメがきた  2年生 Iさん
きれいな海にサメがきた  2年生 Iさん

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コメント: 8
  • #1

    阿部 宏行 (木曜日, 11 3月 2021 10:36)

    いつもながら、鈴木先生の魔法のような指導にうっとりします。
    子どもはきっと活動に夢中になって、イメージを広げ、こんなすてきな作品になったのでしょうね。

  • #2

    O.T (木曜日, 11 3月 2021 10:36)

    おそらく多くの人は、子供が「できた!」と作品を見せに来たら、その作品を見ます。でも、先生は、その前にやることを知っています。
    『「できました!」と私に見せに来てくれました。その時の、すがすがしい表情をとても眩しく感じました。』
    この一文は、子供が「できた!」と作品を見せにきたとき、作品よりも先に、子供の顔を見たことを示していると思います。先生というのは教育現場の専門家です。作品よりも子供の思いが大事なことを知っていて、「できたね!」と真っ先に子供の気持ちを認める人々なのだなあ、と思いました。

  • #3

    はな (日曜日, 14 3月 2021 17:24)

    Iさんは黄色が好きなのですね。好きな色からイメージを膨らませることができて、砂浜、海と発想がどんどんとつながりましたね。Iさんは、それを予想していたのかどうかわかりませんが、できた!とうれしそうに一生懸命伝えようとする様子が目に浮かびます。

  • #4

    図工のみかた編集部 (月曜日, 15 3月 2021 09:25)

    阿部宏行先生

    コメントありがとうございます。

    そうですね。本当に、夢中になって取り組んだんだと思います。
    先生と子どもとのやり取りが、子どもの自由なイメージの広がりを保障しているんでしょうね。

    今後ともよろしくお願いいたします。

  • #5

    図工のみかた編集部 (月曜日, 15 3月 2021 09:49)

    O.T様
    コメントありがとうございます。

    >作品よりも子供の思いが大事なことを知っていて、「できたね!」と真っ先に子供の気持ちを認める人々なのだなあ、と思いました。

    まずは子どもの気持ちを認める人々、本当にそうだと思います。先生というお仕事は素敵ですね。
    わたしも子ども気持ちを想像するようにしたいと思います。

    引き続きよろしくお願いいたします。

  • #6

    図工のみかた編集部 (月曜日, 15 3月 2021 09:52)

    はなさん
    コメントありがとうございます。

    どこまで予想していたんでしょうね。活動が始まった時には全く予想していなかったかもしれませんし、予兆はあったのかもしれませんね。本人も意識していないようないろいろなことが起こって、ここに至ったのかもしれませんね~。
    うれしそうな様子、本当思い浮かびます。素敵な表現ですよね。

    引き続きよろしくお願いいたします。


  • #7

    神谷 真帆 (火曜日, 16 3月 2021 07:07)

    「お花紙と絵の具と…」20色の京花紙を前にした子供たちの、期待に満ちたキラキラした目が思い浮かびます。
    黄色のお花紙をどんどん重ねていったことと、「掘っても掘っても砂は深かった」というエピソードに繋がりを感じました。子供がお花紙を扱う行為・感覚から、必然的に自分の生活経験と繋がりを感じて作品を作っているのが素晴らしいと思いました。図工室に流れる暖かな空気が、思い出を呼び起こしているのだと思います。素敵な作品の紹介をありがとうございました。。

  • #8

    sayaka.y (火曜日, 16 3月 2021 21:28)

    子供たちが材料と関われる時間と、たくさん試せるくらいの材料の量が、十分に確保されていたからこそ、Iさんは自分の「好き」を表すことをひらめき、それを「心に残る景色」まで深めていくことができたのでしょうね。
    Iさんの作品について、他の子供たちはどのように思っているのか気になります。先生の授業では、子供たちは「何を作っているの?」と聞き合うのではなく、互いの活動や作品を見ることで感じ取り自分の作品に響かせていく印象です。鑑賞の時間等、子供たちが交流する時間ではどんな言葉が出てくるのか、聞いてみたいと思いました。