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第十回 一本の光

一本の光
一本の光

この作品は、題材「白と黒のすてき」で表したものです。水彩絵の具のこれまでの経験を活用し、白と黒の絵の具でいろいろこころみながら自分の表したいことを見付け、どのように主題を表すか考えていくことを提案しました。

 

材料・用具:水彩絵の具(白・黒)、筆、ローラー、マスキングテープ(9㎜・15㎜)、白ボール紙(様々なサイズに小さく切っておいたものと、台紙とするもの。)

 

 

 

 

小さな紙から

 

 Aさんは初めに 長方形の白ボール紙を選び、マスキングテープを1本貼り、ローラーで丁寧に黒色をぬります。はがすと白い筋が表れます(①)。2枚目はローラーで画面を黒くぬりつぶし、生乾きの上にマスキングテープを斜めに貼り、白色をローラーで置きました(②)。3枚目は黒くぬった正方形の画面に、筆先につけた白い絵の具で枝分かれしたような筋を伸ばしていくと、様々な灰色が生まれました(③)。ここまでを2時間をかけて表しました。

 

 

 広がる世界

 

翌週、Aさんは3枚の小さな紙を台紙(白ボール紙)の上で、何度も並べ替えながら、どう置こうか考え、最初にかいたものを中央に決めました。小さな3枚の紙でこころみたことを手掛かりに、つなげたり広げたり、次から次へと白や黒で様々な灰色に変化する筋を伸ばし続けていきます。まるで地底で成長してうごめく生き物か樹木の根のようにも感じられます。その線が白い画面に達すると、黒い線で力強く伸び出し、斜めの直線につながりました。

Aさんはいつも黙って画面に没入し、時々目を離して見ながら、じっくりと考えて表しています。昼休みも図工室にやってきては、少しずつ筆を進めていきました。

私は、夢中で表現しているAさんの姿と、生まれてくる形や色から伝わってくるエネルギーに惹きつけられ続け、画面中央の白い線の意味を尋ねずにはおられませんでした。すると、Aさんはしばらく黙って考え、吟味したであろう言葉で「私一人、だけじゃない“いのち”・・・かな」としぼりだすように小さな声で教えてくれました。

 

 

「一本の光」

 

作品に「一本の光」というタイトルを付けました。以下はAさんが書いてくれたコメントです。

 

「一本の光は、たくさんの“いのち”を表している。枝分かれした線は、小さい、小さい出来事や人々の気持ちの変化を表していて、その小さい光で暗いところが照らされていき、照らされた光も新しい出来事になって広がって、さらに新しい出来事として枝分かれし続けています。ちょっとした言葉で嫌な気持ちになったり、今まで仲良くしていたのにいい感じでなくなったりします。たくさんの出来事(人の言葉、行動)が集まったような感じで、それが大きな力となって、目には見えないものや今の環境(私・世界)までも変化してしまい、これまでの時代が進んできたことを表しました。私がこの絵で伝えたかったのは、あるひとつの行動や言葉などで世界が変わってしまうまもしれない。または、世界が変わっていく時代をつくりあげていけるかもしれない。だから、私たちは、もっと言葉や行動に責任をもっていくべきということです。」

 

私は、このコメントに驚愕しました。「Aさん、ここまで深いことを考えていったのね。」と伝えました。

 

Aさんは小さな紙に表している時は、いろいろこころみることを楽しみ、「まだ何も思い付いていなかった」と言っています。台紙に貼ってかき進めていく中で「一本の光」の意味や考えが生成され、確かなものになっていったのです。Aさんの吟味された言葉と表現の強い意志は、しっかりとつながっています。

 

 

一本の光(45×60cm) 5年生 H.A.さん
一本の光(45×60cm) 5年生 H.A.さん

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コメント: 3
  • #1

    iwai (土曜日, 03 4月 2021 07:43)

    声にして気持ちを表す。
    文字にして気持ちを表す。
    絵や音などの表現にして気持ちを表す。

    気持ちの表し方は人それぞれ。

    日々何を思い、何を考え、どんな方法で表現するのか。


    人の心は嬉しい言葉や出来事で白(光)くそまり、一方で、哀しい言葉や出来事で黒(影)いしみをつくる。そうした人間の敏感さを白と黒の絵の具で表現できる凄さに驚きました。

    今メディア社会となり、様々な表現ができるようになりました。題名の『一本の光』とあるように、言葉や出来事で明るい未来がくることを願っています。

  • #2

    太田優子 (日曜日, 04 4月 2021 00:34)

    白と黒からできた模様が描かれた小さな紙、そこから広がるAさんの伝えたい思い、強い意志に驚きました。
    五年生で、ここまで深く考えて取り組んでいる姿、
    考えて、絞り出したAさんの伝えたい言葉に、ハッとさせられました。
    表現することにとても楽しみながら、取り組んでいた様子が伝わりました。
    今回も素敵な記事をありがとうございました!

  • #3

    はな (日曜日, 04 4月 2021 15:16)

    「小さな紙で試みているときには、まだ何もなかった」のが、Aさんが作品と対話していくうちに思いが形だけではなく、言葉としても紡ぎだされていったことが素晴らしく思いました。このAさんは、今までに孤独な思いをしたことがあったのかどうかはわかりませんが、相手の立場になって考えたり、俯瞰的に物事を考えたりする力が5年生にも十分備わっているのですね。