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Phase015:SDGs×地域×探求 =?①

今回は少しプログラミングを離れて、SDGsを探求学習のテーマとして捉えようとする話題です。

 

現在、私が館長を務める板橋区立教育科学館と淑徳大学では、ある共同プロジェクト実施の検討をすすめています。

教育科学館と淑徳大学は、東武東上線でひと駅、歩いても20分以内で着いてしまう位置関係です。

人文学部表現学科長の杉原麻美先生とは、私が館に着任する前から所属学会の研究でご一緒させていただいていたご縁があります。

 

 

事前の打ち合わせで杉原先生からリクエストいただいたテーマはSDGs。

淑徳大学では現在、全学で地域に密着したSDGsに関する教育活動を推進しているとのことで、その一環のプロジェクト検討です。

一方の教育科学館も、区立の科学館として、サイエンス企画を実施して、SDGsの重要性を区民の皆さんに伝えることをミッションのひとつとしています。

 

それならば、双方でせっかくSDGsという共通テーマがあるのだから、別々で何かを企画するよりも、大学×科学館で連携したプロジェクトとして捉えるとより可能性が広がるのでは??と考えたわけです。

 

 

「SDGs×板橋の産業×探求」の科学実験企画

 

実は当館では今年度、下半期の実施をスコープとした、「SDGs×板橋の産業×探求」の科学実験連続講座を計画しています。

通常科学館では、実験教室や製作WSに使う素材は館側で事前に用意しますが、今回はそこが少し違います。

 

この連続講座では、自分が使う素材は、自ら地元の事業者さんなどにもらいにいくことから始まります。

 

<授業1クールあたりの流れ案>

⓪どんなことをしている事業者(団体)なのか事前リサーチ

①実験や製作に有効な、廃棄される予定のものを、素材としてもらいにいくフィールドワーク

②実験や製作

③成果物を科学館に展示、アーカイブ

 

このサイクルを1クールとして、随時テーマを変えて連続的に実施していく講座となる予定。

 

廃棄される予定だったものを再利用するアップサイクル的な発想もSDGs的といえばそうなのかもしれませんが、この講座はそこが主たる目的ではありません。

 

 

板橋区には実にいろいろな地場産業があります。

その地元の事業者さんらから不用品をもらうことで、そのモノを通して身近な生活の、ヒトやモノやコトの「つながり」に気づき、しばしば遠い世界のことと捉えられてしまうこともあるSDGsと自分との「本当の接点や問題」を、考える契機になってほしいという思いが込められています。

 

なお、この企画で製作された成果物がアーカイブとして増えていくことで、当館が、板橋区の産業などについてサイエンスの視点からの情報が蓄積するポータルな機能が備わっていくことも想定しています。

 

 

SDGsと私の距離

 

今回、ご一緒する学生さんは普段「人に伝えること」を学んでいるそう。

杉原先生と話して、プロジェクトの手始めに、まずは上記のSDGs関連企画の運営のお手伝いをしていただきながら、学生さんならではの視点で取材してもらい、継続的に記事をnoteに執筆して発信していただく、ということを想定することにしました。

 現在、さまざまな実践がされているSDGsテーマの授業事例などを拝見していて、私はかねてより「自分ごと化」「主体的な深い思考」がポイントなのだろうなと思っていました。

そんなこんなで先日、本プロジェクトのキックオフとして、「SDGsを伝える」ということについて学生の皆さんと一緒に考える時間をつくっていただきました。

(あれ。これってまたしても、図工ととっても親和性のある話になってきたような気がします)。

「本当によく考える」に至るまで
「本当によく考える」に至るまで

 

この日、学生の皆さんと一緒に考えたのがシンプルに「SDGsと自分の距離感について」。

 

えてして遠い外国の話? と思ってしまいがちなSDGs。

これが、いきなり自分の近くにやってきたときに、私たちはいったい何を考えるのでしょうか。

 

「板橋の」という部分は例で、学生さんそれぞれで一番身近な地名を入れてもらい、その後、「〇〇のSDGs」のそれぞれの項目で、自分はどんな事例を思いつくのか考えました。

人に言えないデリケートな問題や自分自身の体験を含めて、本気で「SDGsとの接点やつながり」について考える経験をして欲しかったので、「考えたことを発表することはしない」と冒頭に約束し、じっくりと長く静かに、一人で考える時間をとりました。

 

ちなみに思考する時間をとった後、それぞれの項目について、すぐに課題を連想できたかどうか聞いてみました。

多くの学生さんは「5割くらいなら連想できた」と答え、「3割しか連想できなかった」という学生さんもちらほら。

 

この経験は、最終的に「科学館企画を通してSDGsについて伝える」ということを想定している彼らにとって、今後彼ら自身が発信する情報を享受する「一般市民の視点」について思いを馳せるきっかけとなったのではないでしょうか。

(なんとなーーーくですが、この講義中私はずっとSDGsについて対話型鑑賞しているような感覚でした)。

 

 

SDGsについて学生と共に考えていく

 

SDGsについて一緒に考えている図
SDGsについて一緒に考えている図

今回は、学生の皆さんと私が、異なる世代の人間として交流しながら、自分ごととしてSDGsを捉えていくためのキックオフとなりました。

 

今後も、良質なアウトプットをするために、多様なバックボーンを持ったヒトの集合体としてのこのプロジェクトの良さを最大限生かしながら、深いリサーチと思考ができる環境を整えていきたいと思います。

本プロジェクトは始まったばかり。

 

今後も実施の様子をレポートしていきます。

 

 

板橋区立教育科学館の取り組みはこちらからご覧ください。

https://www.itbs-sem.jp/

 

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Author:清水輝大(しみずてるひろ)
1983年、北海道生まれ。
板橋区立教育科学館館長、ラーニングデザインファームUSOMUSO代表、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所教育共創ラボ研究員。
青森県立美術館、はこだてみらい館、八戸ポータルミュージアムはっち、ソニー・グローバルエデュケーションなどを経て、現職。
図工美術教育の手法を援用し、創造的なSTEAM教育、プログラミング教育、探究学習などの実践研究を行う。