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Phase017:「なんでも自由につくっていいよ」は難しい?

板橋区立教育科学館は34年前の設立時、地域の先生方の指導研修を実施する施設という主要な目的がありました。

現在はその機能は他施設に移管されましたが、その名残として先生方が理科の模擬授業ができるための大きな実験室が2つもあったり、学校で使用する理科の実験ビデオを撮影するために当時のプロ並みのスタジオ設備を備えた教材制作室があったりします。

その中でも今回は、なつかしい、古き良き図工室の匂いのする「創作室」での出来事です。

この夏休み中、当館では実験的にこの創作室を開放するイベントを実施しました。

「創作室、改めカンチョー室」という企画で、私自身が創作室に常駐しているのですが、特にテーマを提示したり、こちらから指導をしたりすることはありません。

開館以来34年間の多様な館活動で貯まりに貯まったさまざまな素材・端材、ドリルやのこぎりなどの道具を、子どものお小遣いでも払える200円/日で使い放題、という企画です。

昨今、都市部でもレーザーカッターや3Dプリンター(FAB機材)を備えたFABラボと呼ばれる、創作施設がみられるようになりましたが、当企画はFAB機材のないFABラボといったところです。

 

まさに図工室!な当館の創作室
まさに図工室!な当館の創作室

さて、この企画ですが、夏休み自由研究の宿題をなにしようか悩み抜いて悲壮感すらただよっている親子をはじめ(笑)、連日多くの人々がご来場されました。

子どもの年齢も、保育園児からわざわざ電車を乗り継いできた中学生・高校生まで幅広く、その一人ひとりが思い思いに製作し、親子連れは保護者自身も作業に熱中している場面が多く見られました。

 

 

 

入ってきた時の親と子のテンションが相当違う

 

ここで私が取り上げたいのは、ご来場になる親子連れの、親と子の温度感の違いについてです。

お客様がいらっしゃったら冒頭に私は、下記のご説明をします。

「この場所は、200円で、ここにある素材や、道具が使い放題になるというだけ、の場所です」

「なにをつくろうとか、こちらからの提示は一切ありません。ご自由にどうぞ」

 

上記の説明をすると本当に多くの保護者のみなさんが、

「うちの子は自分でなにかつくりだすとか、ひらめくとか、苦手なんです。そうだよね?」

とお子さんに話しかけていることに気づきました。

入ってきた時のお子さんの、ただただなんとなく、直感的に、体が強いワクワクに支配されているだけの「やりたい!!」という表情が、保護者の問いかけで一気に「不安」に塗り替えられていくのがよくわかりました。

「自由にやるって難しいよね、なにしたらいいんだろう」

とご夫婦で話し合う場面も。

また、「なにがつくりたい」と子どもが具体的に答えられないと、すぐ帰ろうとされる保護者の方もいらっしゃいました。

本当に、自由って、難しいのでしょうか。

端材の宝庫。整頓してもすぐこんな状況に。
端材の宝庫。整頓してもすぐこんな状況に。

 

 

「つくる」と言わない方が自然に楽しんでつくりはじめる

 

ちなみに、今回の企画で事前に私たちは子どもたちに、「好きなものをつくっていいよ」とは言わないようにしようと考えていました。

この場で「つくる」ということは義務にせず、「表現する衝動や情動があってから、ものをつくりはじめる」自然な流れを大事にした体験をしてほしいという気持ちです。

そのかわりに、

「あそこにへんな素材がいっぱいあるから、まずは好きなものを探しに行こうぜ」

「レアな素材もたくさんあるんだよ、探してみなー」

「他の人がなにやってるか、みにいってみようよ」

と声をかけるようにしていると、

不安になった子どもたちもすぐに没頭し、結果的に、電車で持って帰るのが困難なほど大きな作品をつくってしまうなど、積極的なものづくり活動に発展していきました。

その結果、当初不安いっぱいだった親子も結局閉館までずっと創作室にいちゃった、なんてことはザラで、

「うちの子がこんなにできるなんてしらなかった」

という状況が多く生まれていたように思います。

 

 

 

大人も、子どもを取り巻く「環境」の一部

 

「ここで自由にやっちゃっていいよ」

と提示されると学習者はまず

「ここでなにができるのか」

「ここでどうしたらおもしろい!を最大化できるのか」

といったことを考え、場のリサーチと小さなひらめきの間を往還する思考が生まれます。

このことは、探究的な学習に必要な基本態度です。

こうした思考の往還を生む学習環境が、学校だけでなく多くの場所で整備されるべきだと考えての本企画でした。

 

しかし一方で、それが子どもたちにとって効果的に機能するよう実施していくには、前述のエピソードのように、企画説明の段階での大人の関わり方、声かけが大きく影響することもわかりました。

子どもは、場所やそこにある材料が魅力的であれば、それらに触発されながら、自然と動き始めます。

我々大人はその気持ちをくじくのではなく、励まし、促すように意識しなくてはいけません。

関わる大人も含めた「環境」の在り方の重要性を改めて感じた機会となりました。

 

板橋区立教育科学館の取り組みはこちらからご覧ください。

https://www.itbs-sem.jp/

 

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Author:清水輝大(しみずてるひろ)
1983年、北海道生まれ。
板橋区立教育科学館館長、ラーニングデザインファームUSOMUSO代表、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所教育共創ラボ研究員。
青森県立美術館、はこだてみらい館、八戸ポータルミュージアムはっち、ソニー・グローバルエデュケーションなどを経て、現職。
図工美術教育の手法を援用し、創造的なSTEAM教育、プログラミング教育、探究学習などの実践研究を行う。