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Phase050:「じゆうな」自由研究

 

 

今回はプログラミングからは離れて、自由研究のお話。

(画像掲載の許可をもらっていなかったテーマである関係で、文字ばっかりになってしまいます。ごめんなさい…)

 

板橋区立教育科学館では、毎年恒例の重点イベントとして、夏休みの自由研究を応募してもらうコンテスト「自由研究作品コンテスト」を開催しています。

 

ところで皆さんは子どもの頃、どんな自由研究をしました?

僕自身は結構こういうのを率先してやるタイプの小学生だったので、夏休みに入る前から「今年はなにやろっかなー」と考えるのが楽しみだったし、この時期、この一大ミッションに対して親も含めて一丸となって挑むあの「チーム感」が結構好きだったりしました。

「やばい!夏休みあと何日しかない!」とか慌てはじめるのは大体親で、僕は他の遊びにも忙しいので、のんびりやる気が向いたら制作する、みたいな感じだったのを覚えています。

 

皆さんも「自由研究」に対して固有のイメージがあるのではないかと思います。

 

 

応募された「アイドル論」

 

さて、昨年の自由研究作品コンテストに、ある作品が応募されました。

テーマは「アイドル」。応募者は小学2年生の女の子です。

 

その、模造紙1枚分のレポートは、地元で活躍する女性アイドルへの羨望で溢れていました。

商店街で開催されたライブを見に行った時のレポートはとても鋭い視点があり、その感動を我々に伝える文章にはとても高い熱量が感じられました。

また、その女性アイドルのファッションについてや、音楽性、所作にいたるまで、なぜ自分がこんなに好きなのか、ということが、ファッション雑誌のような元気のある色使いやレイアウトで表現されていました。

確かに、他の作品が昆虫や恐竜、炎色反応や環境問題、テクノロジーなどをテーマとしている中で「アイドル研究」は異色すぎたし、文章の内容も決して情報が整理されていたわけではなかったかもしれません。

しかし、アイドルを論じているその独自の多様な視点は、小学2年生のものとして目を見張るものがあり、質の高い論文の予稿のように捉えることもできた気がします。

これまで多くの作品を見てきた中でも、私にとってこの作品は、とても印象深い作品となりました。

 

しかし、結果的にこの作品は、2次審査に進むことができませんでした。

 

例年使ってきた審査項目に則り、審査員らの点数の合計によって1次審査通過が決まるという昔からの方式を採用していたため、審査員らはどのように評価すべきか少し混乱していたようだったし、「自由研究はサイエンス領域のもの」であるという暗黙の了解を基とした審査が作品に追いつけなかった、とも私には感じられました。

それって、本当に「自由研究コンテスト」なんだろうか?という思いが私の中に芽生えたひとつのきっかけの話です。

 

 

そもそも自由研究ってなんだ

 

ということで「自由研究」というものについて、少し調べてみました。

もともとは、大正自由教育運動の流れを背景として、1947年に制定された学習指導要領の中に国語や算数などと並んで教科とされたのが始まりとのこと。

「児童の個性の赴くところに従って、それを伸ばしていく」ことを目的として児童ひとりひとりの興味関心に応じて学びを深めるために設置されましたが、当時の方針とのバッティングや、運用上の困難も相まって、早くも1951年の学習指導要領では自由研究は教科からは外れていったようです。

その後、子どもたちの主体的な学習機会創出への機運の高まりと共に、夏休みの宿題として復活し、今に至るという流れでした。

いつの時代も、個別の興味関心を起点とした教育方法のニーズは叫ばれつつ、その運用の困難さが障壁になるんだなあ、なんてしみじみ感じますし、文言だけ読むと、今でもとてもわかりみの深い経緯のように思えます。

 

(当時の学習指導要領(試案)はコチラからご欄いただけます。「国立教育政策研究所教育研究情報データベース 学習指導要領の一覧 昭和22年 学習指導要領 一般編(試案)第三章 教育課程 二 小学校の教育課程と時間数」編集部註)

 

 

真に自由な研究であるために

 

さて、ここで私が注目したのがやはり、

「児童の個性の赴くところに従って、それを伸ばしていく」

というところ。

つまり、もともとの「自由研究」の発生に忠実になるのであれば、その研究領域は各人の興味の赴くままに設定してよいはず。

しかし現状は、「夏休みの自由研究」が定着する中で固定化されてきた、「自由研究っぽい、アレ」のような理科や社会問題っぽいイメージが強固に存在するのも事実。

まずは、このイメージを壊していきたいな、と当館では動き始めています。

 

施策① イベントタイトルを変えた

 

これまでこのイベントは「自由研究作品コンテスト」という表記でしたが、当館では今年から「じゆう研究作品コンテスト」とし、自由の部分を強調しています。

同時に、この企画全体のビジュアルイメージも大幅に刷新。

これまでもできる限り子どもたちに寄り添ったデザインを館内部で試行錯誤してきましたが、今年度からは、青森県美時代の同僚で、これまで多くのデザイン事務所で活躍されつつ、現在はPEAKSとして独立されたデザイナーの山口潤 氏にロゴを含めたビジュアルのトータルディレクションを依頼しました。

かなり、自由でぶっ飛んでる感が表現されているのではないかと、山口さんには大変感謝しています。


施策② アート作品も応募OKにし、通常の自由研究作品と同等に扱うことにした

 

アート部門を設立したのではなく、これまでの自由研究作品と同じ土俵でアート作品を扱うことにしました。

これには2つ意図があって、

  1. 真に子どもたちに「個性の赴くところに従って」もらうためには、身の回りをじっくりとよく見るアートの視点が不可欠であること。
  2. 上記が実現した際に、深く探究したことを表現するために形式としては、答えを追い求める研究論文の形だけでは不十分になってしまう可能性があること。例えば答えを求める他にも、社会に対して問いを提示したり、多様な視点を取り込んでいく手法自体が、その時点での結論として扱うことも認めていこうとするため。

ということです。

なお、当館はあくまで自由研究作品展を実施していて、美術作品展を開催しようとしているわけではありません。

施策③ 受賞作品展を、当館の冬の企画展として扱うことにした

 

これまでも受賞作品は当館で展示されていましたが、作品の複製を展示するだけのコンパクトなものでした。

これを、館の冬の大型企画展として充当し、受賞作品1点ごとにブースを設置。

作者も定期的に展示ブースに在廊するような大掛かりな企画展を考えています。

  • 作者の自由な視点を、社会に対してより深く紹介していくため
  • 実際の対話を通してコミュニティーを形成し、自由研究というテーマを多年代で交流しながら深めていくため

という意図があります。

ちなみに去年度からトライアルで、作者によるブース発表を開催し始めていて、一般来館者やその保護者との交流が多くありました。

今年度、その交流に触発されてこのコンテストに応募してくれた人もありました。

 

 

当館での、真にじゆうな研究プロジェクトは始まったばかり。

今回の記事ではご紹介できなかった細かい企画も多数存在しますので、これからも都度ご紹介していこうと思います。

 

ちなみに、冒頭でご紹介したアイドル論の研究がきっかけとなり、当館では「アイドルを目指す人のためのレッスンとプラネタリウムコンサート」のプロジェクトが爆誕!

もちろん、この作者の女の子も関わってくれています。

このプロジェクトのチラシを見た人たちからは「科学館でアイドル?なんじゃそりゃ!」って言われているそうですが、当館としてはド真面目に、科学館がやるべき探究プロジェクトとして扱っています。

去年は賞はあげられなかったけれど、絶対にその探究の芽はつぶさないよ。

 

 

ということで皆様、今から、今年の冬休みは板橋区立教育科学館の企画展にご注目を!!


 

★板橋区立教育科学館の取組みは、板橋区立教育科学館のサイトhttps://www.itbs-sem.jp/でご確認いただけます。

 

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Author:清水輝大(しみずてるひろ)
1983年、北海道生まれ。
板橋区立教育科学館館長、ラーニングデザインファームUSOMUSO代表、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所教育共創ラボ研究員。
青森県立美術館、はこだてみらい館、八戸ポータルミュージアムはっち、ソニー・グローバルエデュケーションなどを経て、現職。
図工美術教育の手法を援用し、創造的なSTEAM教育、プログラミング教育、探究学習などの実践研究を行う。