· 

Phase052:大人になってしまった②

 

前回から続きです(前回の記事はコチラから)。

ある日、科学館近くの中学1年生(7年生)が、こちらも魔改造プロジェクトのために当館へ現場調査に訪れました。

(地元中学生による科学館魔改造プロジェクト「板橋区立中学生パラダイス館」の導入については、コチラの記事で書いています)。

 

 

大人になりかけていた

 

地元小学生との魔改造「教育科学館遊園地化計画」は2ヶ月ほどの活動でしたが、中学生プロジェクトは、なんとほぼ1年間の活動です。

そのため、科学館スタッフも最初から定期的に中学校にお邪魔し、じっくりと伴走を続けてきました。

ただ、授業時間の関係もあって、科学館での活動は最初にテーマを提示したタイミングで来館して以降なく、生徒たちは学校の教室でアイディアを出し合ったり、検討を重ねたりしてきました。

 

そのため、科学館スタッフが定期的に授業にお邪魔し、各グループと相談しながら検討を続けていました。

 

Aくん 「しみてるさん(僕のこと)、うちの班はこんな感じで考えてるんだけど、いいよね?(企画書をみせる)」

清水  「ああ、中学生がいろいろ楽しく遊べる場所を作るのね。リニアモーターカー(当館の体験展示の一つ。1名ずつ乗車できる車両で、磁力を動力として、5m程度の直線レールを走る)を可愛くデコるのかー、なるほどね。たとえば、これがあれば、中学生であるAくんは科学館に行きたくてしかたなくなる、ってことでいいよね?」

Aくん 「もちろん」

清水  「じゃあこの授業がなかったとしても、たとえば学校が終わったら科学館に本気で来たくなるのね?」

Aくん 「あーそうかー、そう言われると、うーん。おーいB、どう思う?」

Bさん 「行かないと思う」

清水  「えーだめじゃん。中学生パラダイス館なんだから、まずは自分が絶対行きたいってものにしなきゃ」

Aくん 「えーどうしよう、じゃあもっとデコるの派手にする?」

Bさん 「派手になったからって行くかな?」

Aさん・Bさん 「うーん」

 

実は、この「板橋区立中学生パラダイス館」というテーマ名にも表れている通り、当初私たちが期待していたのは、大人には思いつかないような、中学生ならではの「突拍子もない企画」のようなアイディアでした。

しかし、出てきたアイディアは、その内容如何の前に、改めて考えると自分たちもおもしろいと思えるアイディアでない、ということがかなり多かったのが現実でした。

 

私のようなおじさんがおもしろさがわからない、中学生だけがわかる、という状態なら大歓迎だったのですが、中学生自身もおもしろいかわからない、というものだったように思います。

一言で言うと、「こんな感じでいいよね」という、少し「置きにかかって」しまっているような状態です。

とはいえ、私たちももちろん、最初から珠玉のアイディアがどんどんでてきて….なんて、考えていたわけではありません。

 

一旦、「題材への入り」としてはこのくらいにして、実際に場をよくみたり、少し作り始めていく間に、どんどん思考が具体性を帯びて深まり、新しいアイディアが出てくると考えていました。

その一環で、授業ごとにアップデートされる各班の企画書に対し、当館スタッフがコメントやアドバイスを書いて返すというようなこともやっていたのですが、時間が経つに連れ、正直なところ科学館スタッフも「あれ?あんまりおもしろいアイディアが出てこない…」とすこーしだけ思い始めていたようにも思います。

そして、「もしかすると、やっぱり中学生だから、いろんな意識が少し大人びようとする方向にいってるのかもしれないね」なんて話したりしていました。

 

 

子どもに還った

 

中学生の現場調査
中学生の現場調査

さて、やっと中学生が来館するタイミングがやってきました。実際にどんなものをつくるのか、イメージし始めてからは初めての来館です。

科学館スタッフも、「やっと場をじっくりみれるのだから、アイディアのアップデートが加速するだろう!」と楽しみにしていました。

…と思っていたら、私たちの想定とは全く別のところが、中学生たちに大きな影響を与えたのです。

 

 

来館したタイミングでは小学生の作品が、館内各所に展示されていました。

中学生たちは別にこれを見にきたわけでなく、自分たちの作品を設置するための現調に来ただけだったのですが、彼らの目は、小学生の作品に釘付けになったのです。

 

「うおすげえ」

「これどこの小学生?え?小3まじかよすげえ」

「めっちゃ楽しい、これつくりたい」

「これやってみたーい、やってみていいですか?」

決して年長者が年下がつくるものを見ているようなものではなく、純粋に、楽しそう、やってみたい、すごい、という反応のように私には感じられ、そのことに私は驚きました。

「えーなるほど、自分たちもこのくらいはっちゃけたのつくりたい」

こうなってから、先述のチームはアイディアが激変しました。

「このリニアモーターカーの上を全部幕でかこっちゃって、ドームみたいな、トンネルみたいなのにして、車両にはプロジェクター設置したらすごそうじゃない?」

「えーそしたら、その時の音はどうする?」

「黒いドームだけじゃ外から見て面白くないから、ディズニーランドみたいに外からもめっちゃおもしろそうにしようよ」

同じメンバーで話しているとは思えないくらい、その会話には「熱」を感じたし、表情はまさにこの題材に没頭しているように見えました。

 

メンバーそれぞれが、とても無邪気な状態に還って、話をすることが出来始めたのだと思います。

 

 

感受性と経験値

 

これらは、私にとって想定していなかったことでした。

たしかに現調に来さえすれば、その場を解像度高く知ることができるし、アイディアは出ると思っていました。

しかし実際は、場ではなく、小学生の作品が彼らにとって大きな刺激になったようです。

 

このことは、この記事の趣旨で語るならば、

「大人になりかけていた中学生が、無邪気な小学生の作品に刺激されて、自身も子どもに戻った」

とも言えるかもしれません。

 

それまで、

「何を作ればいいかわからない」というストレスを彼らは感じていたのでしょうが、無邪気な状態になった後は、何も状況は変わってないにもかかわらず、「何ができるかわからない」という期待・ワクワクに変換されたように思いました。

 

「子どもに還った」と表現したこの状態は、言い換えると、「感受性が高まった」状態とできるのではないかと私は思います。

好奇心や、もっとこうしたい!と思うための前段階として、そのきっかけを普段の身の回りから探すためには、高い感受性が要求されると思います。

なぜなら、多くの場合、見慣れてしまった環境の中に埋もれている「好奇心のタネ」を見逃さずに反応しなくてはいけないからです。

様々な周辺環境が作用してしまい、中学生はもしかするとこの感受性を潜めていた状態だったのかもしれず、そこに小学生による突拍子もない爆発的な作品が刺激をもたらしたのではないかと私は考えています。

さらにいうなら、中学生らは決して小学生の真似をしたのではなく、中学生らしいアイディアを出してくれたように思います。

リニアモーターカーの体験展示をドーム化して映像を投影し、その中に吸い込まれるような装置、というのは、それ自体を発想することや、それがどうしたら実現するか仮説を持つことにも、小学生にはない中学生ならではの経験値が作用していると言えるでしょう。

 

若い感性という意味での感受性と、中学生ならではの社会的知識が相乗的に作用した、とても興味深い魔改造プランになったなあと、私は大変注目しています。

 

 

この「板橋区立中学生パラダイス館」は3月に期間限定で開館予定。

またお知らせしますので、ぜひ体験しに来てくださいね!

▼中学生に影響を与えた小学生作品


 

★板橋区立教育科学館の取組みは、板橋区立教育科学館のサイトhttps://www.itbs-sem.jp/でご確認いただけます。

 

Phase051< >Phase053

Author:清水輝大(しみずてるひろ)
1983年、北海道生まれ。
板橋区立教育科学館館長、ラーニングデザインファームUSOMUSO代表、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所教育共創ラボ研究員。
青森県立美術館、はこだてみらい館、八戸ポータルミュージアムはっち、ソニー・グローバルエデュケーションなどを経て、現職。
図工美術教育の手法を援用し、創造的なSTEAM教育、プログラミング教育、探究学習などの実践研究を行う。