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第二回 俺の家

「図工の教科書ってすてきだな!」

 

学校の授業再開から2ヵ月がたちました。さまざまな制約はありますが、図工室の机に大きなシールドを手作りし、子どもと図工ができる喜びを、今かみしめています。

5年生は「まだ見ぬ世界」(日本文教出版 図画工作5・6上 P.26-27)から始めました。写真から想像を広げて絵に表す活動です。休校中の自宅学習で教科書の作品や言葉をじっくり見て、自分の心にとまる写真を集めることを提案しておきました。ゆっくり時間をかけ、中にはファイルをつくって100枚近くもの写真を集めてきてくれた子もいました。その子は「図工の教科書はきれいな写真や発想のヒントがつまってすてきだな!」と話してくれました。

 

 

 

A君の「まだ見ぬ世界」

 

君は飼っているトカゲの写真を1枚、大事そうに封筒から出しました。真っ白な体に茶色の点々の模様がついている、それはとても美しいトカゲです。

A君とは2年生の時に出会いました。そのとき初めて図工室でかいた絵は、可愛らしいトカゲでした。その後もA君の作品には時折トカゲがテーマになり現れました。4年生では紙粘土で、友だちも私も仰天するほどのリアルで美しい形と色のトカゲを立体に表しました。いとおしい小さな命に毎日触れて知っているからでしょう。友だちも公認のトカゲ博士です。

 

5年生になったA君がトカゲの写真からどんな想像の世界を広げるのか楽しみでした。「トカゲの名前は“テン”というんだ」「部屋の中を自由に歩くこともあるよ」「食事はコオロギを1日3匹くらい」と“テン”を語る時のA君の目は輝いています。

「写真は部屋の中でどこかを見ているように感じる」。“テン”の切れ長でシャープな目から想像を広げています。画用紙の上で写真を動かしながら、下方に置くと、部屋の中を一気に絵の具で表し、「“テン”は何を見ているのかな……」、A君は筆を置き、考えています。私が準備しておいた写真の箱からA君は何枚かを取り出し、1枚ずつ置いて見ます。A君は月の写真を選び、ベランダの向こうに広がる月夜を“テン”が見ているように表しました。シンプルな構成でえがかれているのですが、私は見るたびにこの絵の中に引き込まれてしまうのです。

 

 

「俺の家」

 

作品のタイトルは「俺の家」。俺とは“テン”のことです。大切な家族なのだなあ。休校中の3か月ほどを“テン”と過ごした長い時間は幸せだったのだろうと想像します。それはA君にとっての「俺の家」にも重なるのでしょう。これまで当たり前に思っていた生活を問う時間でもあったのかもしれません。

 

 

見えないけれど、ここにあるものを手掛かりにして想像をたなびかせていくことは、生きとし生けるものが共に在るために、今とても大切にしなければならないと思っています。

俺の家 5年生 Aさん
俺の家 5年生 Aさん

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コメント: 6
  • #1

    図工家   内野  務 (火曜日, 04 8月 2020 07:38)

    子どもが描画イメージを持つとき。
    それは、一つには、表現に向かう情報を集めることです。「好きなもの」「かっこいいもの」「美しいもの」「食べたいもの」なんでも、切っ掛けのテーマを持ち、言葉でも、
    写真でも、ネットからでも、実物でも、あらゆる情報を集め、自分の創造回路に入力します。回路の駆動から、情報は生活経験や美意識などのフィルター越しに、比較関連され、編集され、新たな表現イメージとして、出力されます。アクティーブラーニングは、図工教育の自己表現として、元来内包されている、豊かな創造回路に他なりません。
    「俺の家」の実践は、まさにこの「子どもが表現イメージ」を持つ時の、
    創造回路入力としての主体的な「情報入力」として、自己表現の本質であり、まさに「俺の表現」の基点となるものです。

         

  • #2

    図工のみかた編集部 (水曜日, 05 8月 2020 07:06)

    内野務先生
    コメントありがとうございます。

    本当におっしゃる通りだと思います。自分を取り巻く世界の中からひっかっかったもの。それらが自分を通って、アウトプットされたものが作品として立ち上がってくるんですね。
    その創造回路全体を受け止めてあげることが大事ですし、創造回路をうまく起動できるようにしてあげられるような題材や教材、きっかけが重要ということでしょうか。

    学級にはいろいろな子どもたちがいますが、「一枚の写真」や「写真に写っているもの」というのは、一人ひとりの子どもが自分の「すきなもの」「かっこいいもの」「美しいもの」「食べたいもの」を見つけることができ、「俺の表現」の基点とすることができますね。ほかの子どもたちの作品を見るときも、その子の創造回路を想像しながら見ていきたいと思いました。

    引き続きよろしくお願いします!

  • #3

    keiko (水曜日, 05 8月 2020 17:50)

    作品はもちろん素晴らしいのですが、それ以上に込められた思いやストーリーが素晴らしいですね!ふすまや足跡からも温かい家に暮らしているのかなと想像できます。Aさんとかかわることができたらなおこの絵が好きになりそうです。子どもの絵をどんなふうにみたら良いのか思い出しています。

  • #4

    図工のみかた編集部 (木曜日, 06 8月 2020 17:48)

    keiko様
    コメントありがとうございます。

    Aさんのトカゲ話、一度聞いてみたいですよね。
    足跡、わたしもとても好きです。
    子どもの作品には、どの作品にもこうした思いや物語が込められているんだと思います。子どもたちが想像を広げた分だけ、わたしたちも想像を豊かにして作品に触れたいですね。

  • #5

    sayaka.y (金曜日, 07 8月 2020 13:15)

    Aさんがどんな思いをもってこの作品を描いたのかを知ることができて、とても満たされた気持ちになりました。自分が「よい」と感じることを素直に表現できる図工室は、Aさんにとって「自分が大切にされている」と感じるような、心地よい空間なのだろうなと思います。いろいろなことに気を付けなければならない世の中ですが、つくり出す喜びを味わえる空間を、子どもたちと一緒につくっていきたいです。

  • #6

    図工のみかた編集部 (土曜日, 08 8月 2020 08:01)

    sayaka.y様

    コメントありがとうございます。
    仰る通り、自分の思いを素直に表現できる場所、空間がある、というのは図画工作で学び活動する上で、一番大切なとことですね。学級づくりや、子ども同士の関係、子どもと先生との関係など多くの要素が絡み合ってそうした場が生まれるのだと思います。同時にそういう関係性があるからこそ、図画工作がより面白い学びの時間になっていくんでしょうね。
    現在は配慮しなくてはいけないこともたくさんおありだと思いますが、ぜひ、子どもたちと一緒に豊かな空間をつくりだしてください!