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第七回 本当の心への門

本当の心への門
本当の心への門

6年生の「すてきな明かり」(日本文教出版 図画工作5・6下 p.26-27)を基にした題材です。光を通す材料、さえぎる材料などを組み合わせて、すてきな光を感じる明かりをつくるものです。

 

 「思うようにいかない…」

 

 この授業では、プラスチック段ボール2mm(以降:プラだん)、LEDライト、透明折り紙、手芸用黒針金、透明接着剤、ホチキス(11mm芯)、カッターナイフ、はさみなどを使い、透過する、遮光する、変化する光を感じながら、すてきな明かりを6時間でつくることを提案しました。

 

 Rさんは最初に針金で2本の木をつくりました。そして45×60cmほどの板状のプラだんを筋に沿って折り、三角や四角にしましたが、何度も折る所を変えて、できる形の可能性を探しています。不定形な形によさを感じ、つくりたいようでしたが、筋に沿ってしか折れない材料の特性なので「思うようにいかない。三角や四角じゃ面白くない。もっと独特の形をつくりたい」とRさんは言います。LEDライトの直進する光とプラだんはぴったりの相性なのですが、Rさんの思いにはなかなかつながりません。そこで私は、切って組み合わせていってはどうかと提案しました。

 

 

他の方法でつくろう

 

次の週、Rさんは前時につくった形を全部くずし、プラだんをはさみで細かく切り始めました。それを曲げてカーブをつけてホチキスで組み合わせながら、あっという間にアーチのような形を立ち上げました。

 

針金でつくった2本の木と、このアーチのような形に「今、どのようなイメージが広がっているのかな」と尋ねると、「この間、芸術家派遣プログラムで狂言の演目である『盆山』の話を聞いた。それをヒントに岩を山に見立て、そこに木を置きたかった」と話してくれました。そのことを担任に話すと、「実は、小さい頃からRさんは盆栽を見るのが大好きで、じいっと見つめていたと、お母さんがお話しされていました」

私はRさんの新たな面を知ることができ嬉しくなりました。

 

 

「本当の心への門」

 

最後の週は、「ミラーペーパーがほしい」と言い、Rさんはそれをアーチの背面に貼ります。中をのぞくと丁度自分の顔が映るのです。そして「つくりだしている世界が向こうへつながっていく」と言うRさんは、無心でつくっている自分の顔を見つめながら、刻々と変化する光に浸り、最後に「本当の心への門」というタイトルをつけて完成させました。

Rさんに「盆栽のどんなところが好きかな。」と聞くと「盆栽は生きているのにとても小さい。小さいけれど大きく見える。独特の世界観があるから。」と教えてくれました。

 

美しさや不思議さに心を動かし、培われてきたRさんの感性、そしてつくりつくりかえながら自分の考えを深めていくRさんのプロセスに立ち会うことができたことが嬉しくてなりませんでした。

 

 

 

本当の心への門 6年生 Rさん 
本当の心への門 6年生 Rさん 

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コメント: 7
  • #1

    図工家  内野  務 (土曜日, 02 1月 2021 13:32)

    LEDのランプを使った工作を沢山見て歩いてます。いろいろな学校の展覧会に、いろいろな本に。
    ようやく、鈴木陽子教諭のこの実践に「行きついた」感でいっぱいであります。
     LEDランプの実践のその多くは、「LEDをこう使えば、こんな綺麗な世界を見ることができます!」という、活用法を込めた+αとしての「表現」であり、「工作」でありました。
    「ほんとうの心への門」にたどり着いた、この児童は、様々な試行錯誤を繰り返し、このまさに「ほんもの」に辿り着いているのです。
     まさにその試作という、図工の旅を経て、この「門」の前に立っているという行為に感動があります。作り手の旅人自身の感動です。
     LEDを、私だったら「どう活用しようか?」それが、この工作のねらいなんです。
     通常は、いつも教師が「美しい効果」を設定して、そのための「工作」を押し付けます。それは、本当の工作ではありません。
     工作は、子ども自身が「工夫しながら作る」という、「道すじ」そのものだと思います。この「ほんものの門」にたどりついたこの子どもの「道すじ」にブラボ!!です。
     ところで、この門が、次に題材化されたら、「工作」は実に退行することを私たちは、教科書は、展望しないといけません。
    「LEDを使って」という、提案題材から、この「道すじ」が生まれること。これは、奇跡でもありますが、この道を選びだす前の「図工の経験が確かにあること」です。奇跡ではありません。それは鈴木陽子という図工教師との、五本木の図工室での「軌跡」に他なりません。

     今後の、教科書題材を設定していく、編集者には、この「道すじ」を選択し、辿り着く、そんな活動のために、教科書には、どんな「提示題材名」を参考として掲載すべきか、大いに検討させられるべき、豊な実践であることは間違いまりません。
     現在、私自身、教科書の全ての版の活動の「題材名」を分析している中で、この実践は大いに示唆的な、考えさせられるものであります。

  • #2

    神谷 (日曜日, 03 1月 2021 17:53)

    「思うようにいかない」「もっと独特な形にしたい」と、子供が作品に対して妥協しないでより良いものを作ろうとする姿勢に感動しました。それは言葉では簡単に言えても、なかなか子供に徹底させることが出来ないことです。「早く終わればえらい」「まぁこれくらいでいいや」という言葉は私が図工で悩んでいることの一つでもあります。

    LEDを使った「すてきな光を感じる作品」……ある意味どんな形でも正解であるこの題材で、ここまで自分の考えを深めて世界観を表現できることが素晴らしいと思いました。
    その子供の力は一朝一夕で身につくものではなく、積み重ねてきた図工の力なのだと思います。内野先生も仰っている陽子先生と子供の「軌跡」をもっと知りたいと思いました。

    更新ありがとうございました。勉強になりました。

  • #3

    sayaka (火曜日, 05 1月 2021 21:18)

    プラだんが思うような形にならないRさんと鈴木先生とのやりとりを読んで、材料の特性に対して難しいことを試みる子供たちに、自分はどのように関わっていきたいか、考えました。イメージに向けてどうしたらいいか尋ねられた時に、子供と一緒に考える時間は楽しいですが、「それはこの材料(道具)では難しいんじゃないかな。」と悩む時もあります。「これで作りたい!」という子供の気持ちを大事にした提案ができるようになりたいです。そのために、この素材や道具で何をしたく・作りたくなるか、教材研究でまずは自分だったら…、そしてあの子たちだったら…と考えていこうと思います。

  • #4

    図工のみかた編集部 (木曜日, 14 1月 2021 10:32)

    内野務先生

    いつもありがとうございます。
    私どもへのエールもいただき大変うれしく思います。
    仰る通り「題材名」、そこに込められた「題材のねらい」がどのようなものであるべきなのか、もっともっと丁寧に考えていかないといけないですね。
    また、「軌跡」というお言葉のように、ここに至る子どもたちのあらゆる経験のつながりの上に、常に子どもたちの表現があるのだということも重く受け止めました。題材を、単なる点でとらえるのではなく、子どもたちの「軌跡」である世界をさらに一つ広げていく座標として考えねばなりませんね。
    きっと今も、材料や用具、色彩や形態は違えど、全国の学校で、こうした「奇跡」が生まれているんでしょうね。

    コメントありがとうございました。

  • #5

    図工のみかた編集部 (木曜日, 14 1月 2021 10:42)

    神谷様
    コメントありがとうございます。

    子どもたちが何度も試行しながら、自分の考えを深めていく、そのプロセスがまざまざと目の前に立ち上がってくるのが図画工作科の面白いところですね。

    仰っていただいたように、一朝一夕に身につくものではないでしょうし、ひょっとすると図画工作だけで培えるものでもないかもしれませんね。
    でもきっと先生のクラスでも同じような「奇跡」が起こっているように思います。その子の「軌跡」の先に生まれてきたものはその子にとっては全て「奇跡」ですよね!

    引き続きよろしくお願いいたします。

  • #6

    図工のみかた編集部 (木曜日, 14 1月 2021 10:48)

    sayaka様

    コメントありがとうございます。
    材料や用具についての勉強は難しいですよね…。つい「正しい」使い方を学びたくなるし、学ぶとそれを伝えたくなりますし…。
    仰っていただいたような「あの子たちだったら…」という視点があると、また違った研究がひろがりそうですね。常に子どもたちのことをお考えになられているのすてきだと思います!

    引き続きよろしくお願いいたします。

  • #7

    aki (金曜日, 22 1月 2021 00:12)

    彼の作品をのぞいた時に、ミラーペーパーにうつるミニチュアの人物が見えました。
    ミニチュア君にはドーム、木、光、ミラーがどんな風に見えているのかを想像しました。
    あのミニチュア君がいなければ、きっと自分の姿がミラーに写っていて、作品の中には入り込めなかったと思います。ミニチュア君を通して、「本当の心の門」の世界を見ることができました。
    なぜ、盆栽からインスピレーションを得たのか分からないでいましたが、
    小さくてもそこに世界が広がっている彼の作品に、盆栽に似た感覚を覚えました。
    見たというより、体験したと感じられる作品を創り出した彼に感動しました!