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第八回 浜辺

浜辺
浜辺

6年生の「感じて 考えて」(日本文教出版 図画工作5・6下 p.30-31)を基にした題材です。材料に触れて感じたことから、自分の表したいことを考えていくものです。

 

 自分の表したいこと

 

 手と心をいっぱいに働かせて、いろいろな材料や用具を使って自分の表したいことを見付け、主題をどう表すか考えていくことを6年生に提案しました。

 材料は、キャンバスF10、水彩絵の具、アクリル絵の具、クレヨン、パステル、京花紙、土、胡粉、PVA(洗濯糊)、ニスなど。用具は、筆のほかに様々な刷毛などです。これまでの経験を生かし、自分の表したいことに合わせて選べるように準備しました。

 

 Kさんは、いつも思っていることや感じていることを自分から進んで話しかけてくれます。「この間、友だちと一緒に見た夕日がすごくきれいだった。これを図工の時間に表せたらいいねって話していたんだ。だから夕日をテーマに“競う”ことにした」。私は「とてもすてきな話を聞かせてくれてありがとう」と言いました。

 

 Kさんは、まず、水彩絵の具の青と白をキャンバスに絞りだし、水をかけて手指で伸ばし始めました。色が混ざり合っていく水色が画面全体に広がりました。その上に赤い絵の具で太陽と思われる形を筆でかきました。

 

 

どう表そうか

 

次の週、自分の画面をしばらく見て、「ああ、違う」と言ってキャンバスを水場に持って行き全て洗い流しました。再び水彩絵の具を画面に絞りだし、手指や刷毛で塗りこめていきます。材料を取りに移動しながら、夕日の感動を共にした友だちがどんなことをしているのか見ています。

 

そのうちKさんは土粉と洗濯糊を混ぜて画面にぬる、ボトルに入った糊で曲線をえがくようにたらした上から、土粉をかけ、胡粉をかけ、余分な粉を払い落とす、という表し方に夢中になりました。画面に厚みが増し、絵肌の心地よさを感じているようです。

Kさんはずっと立ったまま、手や体をぐいぐいと動かし、変化していく形や色から自分の「夕日」をどう表そうか無言で考えています。半円の太陽にマスキングテープを貼り、直線をクロスさせて絵の具をぬり、テープをはがしてできた形にまたテープを重ねて色をぬることを繰り返し現れた夕日に「よし!」と完成を決めました。

 

 

「浜辺」

 

Kさんは、この作品に「浜辺」というタイトルを付けました。最初に夕日を表そうと決めていました。でも、表しながら何度も佇んだり、刻々と形や色を変えたりしながら思いを実現させようとする過程で、「浜辺」の夕日として感じ方や考え方を深めていったのです。

 

 Kさんは、「この先どう表そう、どうしたら自分がきれいだと感じた夕日を表せるだろうと途中何度も思った。シーグラスを付けると浜辺の感じになり、マスキングテープでできた形は鳥のイメージになった。いろいろな材料に触れていく中で、完成できた」と話してくれました。2年生から図工に関わってきた、6年生のKさんの成長をとても頼もしく嬉しく思いました。

 

中学校でも、美しさや不思議さに心を動かし、チャレンジすることを楽しみ、自分の思いや夢を実現していってほしいと心から願います。

 

浜辺 6年生 Kさん 
浜辺 6年生 Kさん 

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コメント: 7
  • #1

    図画工作家  内野 務 (木曜日, 04 2月 2021 08:46)

    「浜辺」に筆箱                                

     Kさんの「浜辺」は、児童と大人との絵画表現の垣根の無用を感じさせ、一人の表現者としての絵画として、観させてもらいました。

     友達と見た夕日という、絵画表現の自然な発動が先ずあり、その動機を今までに出会って来た、さまざまな描画手法「たくさんの筆」を駆使して、キャンバスに実現していきます。まさにINGで描く(進行形描画)絵画です。しかも、「見た夕日」を、キャンバスに再現するのでなく、 素材との語らいから、そこに「新たな夕日」を思い、見つけています。

     多様な描画をしっかりと、「キャンバス地」が、ING描画のフィールドとして受け止めます。INGは、後退もします。下地の洗い流しを おおらかに、「キャンバス地」は見守るようです。洗い直しを、決断することは、素材を身に着けてきたKさんの「筆箱」のなせる行為です。

     五本木の子どもたちを低学年からの描画活動を何度も観させていただいてますが、まさに、その低学年からのお花紙や、とろとろ絵の具等、

     6年生になるまで、この学校の子どもたちは、実に様々な「筆」を体験し、そして自分の「筆箱」を創ってきています。そして、その「筆箱」から、使う場面を感じ、使い方を考え、そこから沢山の「自己決定」を繰り返してきました。

     「浜辺」のING描画は、ですから、2年生から続いてきたINGが、今、6年生になって描かせる絵画でもあります。

     「夕日」を新たにキャンバスにつくるため、地塗り、ステンシル、スタンピング、シーグラス貼付けなど、その筆は実に多様です。何より、

     これらの「筆」が、自分の「筆箱」から自分で選び、自分で感じ、考えながら使いこなしていく、まさに「図工の筆箱」です。

     私たちは、一つ一つの描画題材を通過点として、単的に設定するなことなく、こんな子どもの中に蓄積していく「筆箱」を育むことで、

     長い図工6年間を編み出していく必要を感じます。図工教科書は、このことから拡げ、子どもの大切な「筆箱」たらんとすべきです。

     絵は描くものでなく、作り出していくものであることを、その時間の経緯と共に感じさせます。

     まさに、「浜辺」は、「時のさざ波、渚に寄せ来る」、そんな絵画であります。五本木の子どもたちを少しだけ知っている私にも、

     なんとも「自慢したくなる絵画」である爽快な浜風を感じます。何度も子どもの絵を自分の部屋に飾りたくなった衝動を覚えてます。

     「浜辺」は、せめてプリントして飾りたい、私の名作です。

  • #2

    はな (土曜日, 06 2月 2021 22:18)

    思い描いていたあの日の夕日。いつか図工で表したいと思っていたというKさん。図工が好きなんですね。学校生活の中でも大切な時間なんですね。そして、実際に完成した時には、浜辺へと変化したのですね。途中で絵の具を洗い流したとのことですが、思い切りのよいところも見せてもらった気分です。真剣に、かつ、いろいろと陽子先生に語ってくれながら創り上げていく場面に私も立ち合いたかったです。中学でも素敵なイメージを持つ感性はそのままでいて欲しいですね。

  • #3

    S.Yukari (日曜日, 07 2月 2021 00:01)

    感動、驚き、喜びをまん丸な目をして素直に表現していた1年生の頃のKさんの姿を思い出しながら、今回の作品に浸りました。
    夕日から得た言葉にならない思いやその情景を今回自分なりの色や形で表現したKさん。大きな成長に逞しさを感じました。2年生からの5年間、陽子先生のもとで表現することの楽しさを日々体感し、積み重ねてきたその経験は彼にとって大切な宝物になっていくのだと思います。

  • #4

    図工のみかた編集部 (木曜日, 11 2月 2021 09:33)

    内野務先生

    コメントありがとうございます。

    >子どもの中に蓄積していく「筆箱」を育むことで、長い図工6年間を編み出していく必要を感じます。図工教科書は、このことから拡げ、子どもの大切な「筆箱」たらんとすべきです。

    仰る通りですね。「題材」という一つ一つのくくりで考えるだけでなく、「題材」を通して子どもたちにどういったことが蓄積されていくのか、蓄積していってほしいのかという願いを込めることが大切だと思います。我々が提供する教科書全体がそうした「筆箱」であり、一つ一つの「題材」を経験することが新たな材料や用具、発想との出会いであり、子ども自身の手による発見の機会となるようにしていきたいと思います。

    >INGで描く(進行形描画)絵画です。しかも、「見た夕日」を、キャンバスに再現するのでなく、素材との語らいから、そこに「新たな夕日」を思い、見つけています。

    私もこのことがとても面白いと感じました。学習指導要領では「表したいことを見付け、~どのように表すのか考える」とあり、文字という制限上どうしてもリニアに捉えてしまいそうになりますが、拡散と集中を繰り返し「発想」と「構想」を繰り返しながら、ここに到達したんですね。偶然であり、必然出会ったように思います。

    >「キャンバス地」が、ING描画のフィールドとして受け止めます。
    筆箱の中が増えている6年生だからこそ、それを受け止める支持体として「キャンバス地」が有効だったんですね。「キャンバス」はそこそこ高価で、なかなかすべての学校で購入することは難しいかもしれませんが、材料について吟味することの大切さを教えていただきました。

    引き続きよろしくお願いいたします!

  • #5

    図工のみかた編集部 (木曜日, 11 2月 2021 09:41)

    はなさん

    コメントありがとうございます!
    >思い描いていたあの日の夕日。いつか図工で表したいと思っていたというKさん。
    夕日を見てきれいだと感じたこと、とても素敵だな、と思うと同時に、図工に関わる者としては、図工で表したい、と思ってくれたことがとてもうれしいですね!これまでも、そうした思いを受け止める時間になっていた、ということでしょうか。

    >真剣に、かつ、いろいろと陽子先生に語ってくれながら創り上げていく場面に私も立ち合いたかったです。
    本当にそうですね。まさに子どもと先生がともにかなでる時間が、全国のいろいろな教室や図工室で流れていると思うと、うれしくてうらやましく感じますw

    引き続きよろしくお願いいたします!



  • #6

    図工のみかた編集部 (木曜日, 11 2月 2021 09:52)

    S.Yukariさん

    コメントありがとうございます。

    >感動、驚き、喜びをまん丸な目をして素直に表現していた1年生の頃のKさん
    そうなのですね~。先生方が一人ひとりの子どもに、丁寧に寄り添ってこられたからこその、この表現なんですね。我々はこうしてこの瞬間のKさんに接することはできますが、ずっとそばにおられた保護者の方や先生方にとっては、きっと違った見え方がするんでしょうね。うらやましいです…。

    >積み重ねてきたその経験は彼にとって大切な宝物になっていく
    本当にそう思います。忘れられない宝物になってくれると嬉しいですけど、もし忘れてしまうことがあったとしても、経験したことは子どもたちの心と体に刻まれ、見えない宝物になるんだろうと思います。

    引き続きよろしくお願いいたします!

  • #7

    keiko hiroki (木曜日, 11 2月 2021 22:05)

    作品に表すだけでなく、自分の思いをこんな風に言葉にできる、素敵です。陽子先生が「素敵な話、ありがとう」と。この安心感が子どもをのびのびとさせているのだと思います。作品の奥にこめられている思いに気づける、そして引き出せる教師でありたいです。