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第二十八回 生きているあかし

この作品は、5年生の「立ち上がれ!ワイヤーアート」(日本文教出版 図画工作5・6上 P.30-31)の授業の中で表したものです。針金に触れて形を変えながら、立ち上がる面白い形を見つけて立体に表す活動です。

 

 

形を変えながら考える

 

 針金を曲げる、巻く、ねじる、束ねるなど、いろいろ試しながら、形を変え、組み合わせたりつなげたりして、針金の面白い形を見つけて、空間に立ち上げていくことを提案しました。

 試し表すことを楽しめるよう、太さや色の異なる針金を短かめに切って図工室の中央に置き、選べるようにしました。針金の先端は危険なので、移動する時、表す時は先端を曲げておくよう、子どもたちに伝えます。

 

 Nさんは、一番細い針金を選びました。クネクネと曲げたり、棒に巻いたり、ねじったりしてできる形を楽しんでいます。曲線と尖った形で、葉のような形を手とラジオペンチを駆使してつくりました。

 

 いくつか面白いと感じる形を試し表した後、Nさんは数本束ねた針金を、白と黒でぐるぐる巻き始めました。巻くほどに丈夫になっていきます。今度はそれを立たせようと、黒い針金で輪っかをつくりつなげ、しっかりと立たせました。そこへ最初につくった葉のような形をつけ、1回目の活動を終えたNさんの名札には「時代をこえる」と書かれていました。


 

 

自分にとってバランスのいい形

 

 Nさんは次の週、前時につくった作品を土台にのせ、釘で打ち付けました。さらに3mmの太い針金を3本使い、ゆるやかな曲線を描くように上に高く伸ばします。中の小さな作品を包み込むようにして、形を変えています。私はこの後、Nさんがどんなふうに形を変えていくのか楽しみでなりませんでした。

 何故なら、Nさんはすでに表したいことや自分のいい形を見つけていたので、ここからさらに考えを深めていく場に立ち会いたいと思ったからです。

 

 しばらくの間、Nさんは作品から少し目を離して見たり、土台を回して視点を変えたりして考えています。Nさんにとってバランスのいい形は、中の小さな作品と太い曲線の関係の中で探られているのだろうと私には感じられました。

 その後、3本の針金は少しずつ高さをずらして、上の方でつながりました。さらに2本の細い針金をねじったものを、太い針金にからめたり、中の小さな作品から伸びた線がつながってきたりして、形が響き合っていきます。最後に円柱形のラミン棒に細い針金を巻いてつくった、小さな花のような形をつけて完成させました。

 

 

「生きているあかし」

 

 Nさんが作品につけたタイトルは「時代をこえて」から「生きているあかし」に変わりました。以下はNさんが作品に添えたコメントです。

 

最初は針金でいろいろ試してできる形をさがしました。

そのうちに、たくさんの葉がついている植物があったらいいなと思い、葉の形をつくりました。

組み合わせてどんどん針金をつけていくと、ずっと昔から生えている木を感じて、「時代をこえて」というイメージになりました。

まわりに太い3本の針金をつけたら、木をささえているように見えたので、「生きているあかし」にしようと思いました。

針金をねじって、それをまたねじって、何度もくり返しつけていくと、「がんばって生きている」感じが強くなったからです。

 

 

(編集部註)

※今回のNさんは、第六回「月の島」でも紹介したお子さんです。併せてご覧ください。

第六回 月の島


材料・用具

教師:アルミ針金(白と黒の1㎜、1.5㎜、2㎜、3㎜等)をそれぞれ短め(30㎝、50㎝、60㎝程)に切っておく、檜ラミン棒(円柱、角柱)、土台となる角柱、ラジオペンチ、ペンチ、釘、金づち

 ※材料・用具は子どもが自分の思いに合わせて選択する。用具を使わない子どももいる。

       

 


《生きているあかし》 (高さ 約80㎝ 土台木部含む) 5年生 O.N,さん

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コメント: 3
  • #1

    ふくざき あや (月曜日, 10 10月 2022 14:38)

    私は、図工の授業でワイヤーをもらったら、何かの形を作らなければならない、ある程度その何かを決めてから作り始めなければならない、そしてその形は、誰かが見てわかってもらえるもの、わかりやすいものでなくてはならない、と思い込んでいた子どもだったように思います。

    「立ち上がれ!ワイヤーアート」の授業を繰り返し繰り返しやってみて、針金に触れて形を変えながら、立ち上がる面白い形を見つけて立体に表す活動ということの意味が、教師として、ようやく味わえるようになってきたように思います。でも、だから、どうやって子どもたちに授業で提案していけばよいのか?いつも悩みます。考えます。考え過ぎて決めるに決められなかったそんな私の導入を越えて、子どもたちはワイヤーという素材から、つくられる形を見つけていきます。

    Nさんが、表したいことや自分の形をすでに見つけていたこの作品の過程に、ここからさらに考えを深めて行く場に立ち会いたいと思われた、鈴木先生の子どもに寄り添う気持ち。そんな幸せな瞬間に、たくさん気がつけるような授業ができたらいいな、と思います。

  • #2

    図工のみかた編集部 (火曜日, 11 10月 2022 09:27)

    ふくざき あや様
    コメントありがとうございます。

    わたしは自身が子どものころにこういったタイプの題材に取り組んだ記憶もないのですが、
    >何かの形を作らなければならない、ある程度その何かを決めてから作り始めなければならない、
    >そしてその形は、誰かが見てわかってもらえるもの、わかりやすいものでなくてはならない、
    このように感じていた子どもたちもたくさんいると思います。
    それはきっとその子のせいというよりも、「表現する」ということがそういうものである、という経験を積み上げてこられてきた、ある種、学習の結果ともいえそうです。

    >どうやって子どもたちに授業で提案していけばよいのか?いつも悩みます。考えます。
    >考え過ぎて決めるに決められなかったそんな私の導入

    先生が真摯に題材に向き合うお気持ちには頭が下がる思いです。子どもたちのこれまでの経験や、実態も違いますし、唯一の正解、というものはないんだろうなと思います(上に述べたようにこれまでの学習の積み重ねもありますしね)。
    でも、丁寧に紡がれた言葉や先生のお姿から、きっと子どもたちは、この授業の中で自分たちがどういうことを頑張っていくのか(何を学ぶのか)を理解して取り組むんじゃないかと思います。

    >そんな幸せな瞬間に、たくさん気がつけるような授業ができたらいいな、
    きっとこう思い続けることが大切なんでしょうね。

    ぜひ先生の見つけた子どもたちの素敵な姿もお聞かせください。

    引き続きよろしくお願いいたします。

  • #3

    g m k a (木曜日, 28 9月 2023 20:06)

    Very beautiful