この作品は、5年生の子どもが、「消して かく」(日本文教出版 図画工作5・6上 p.16-17)で表した作品です。コンテで紙を黒くぬりこめ、消しゴムで消して浮かび上がる形から表したいことを見つけて絵に表す活動です。
「全身の感覚を働かせて」
最初に子どもたちを側に集め、実際に演示をして題材を手渡すことを大切にしています。真っ白な木炭紙にコンテでぬって、手や指でこすりこんでいきます。立って全身の感覚を働かせる私の姿に子どもたちが身を重ねてもらいたいと思いました。
その後、あらかじめ真っ黒にぬり込めておいた画面を出すと、「えーそんなに真っ黒?」と声が上がります。その画面に消しゴムですっと線をひくと「おー!」という声。子どもたちに、消して生まれてくる形から思い付いたことをもとに、ぬりこめたり消したりしていろいろ試してみようと伝えました。
活動を始めると、慎重にコンテでぬる子、ごしごしとものすごい勢いでぬる子など様々です。あっという間に真っ黒の画面になりました。手や顔に付いた真っ黒な粉も気にせずに楽しんでいる子どもたちを、私は微笑ましく見守りました。
「じっと見つめる」
Jさんは、木炭紙を縦に置き、静かな動きでコンテをぬり始めました。しかしだんだんと腕のストロークは大きくなり、体重をかけるようにして手指でコンテをぬりこめていきます。わずかな時間で画面を真っ黒にぬりこめました。
Jさんは、消しゴムを手にすると、画面の一番下を横へ消していきます。薄く淡い白です。しばらく、 画面全体を見た後、薄く淡い白から上に向けて、するすると草が伸びるような線をかいています。消しては、画面をじっと見つめています。そして、今度は木炭紙を反対向きにすると、手前から弧をえがくようにして力強く消し始めました。何度も何度も消していくと、はっきりとした白い形が生まれ、画面の中で眩しく光っているかのように感じられました。次にその外側をうっすらと消して、濃淡をつけるようにしています。消してはぬりこめて調整を繰り返していきました。
再び、画面を静かに見つめた後、Jさんは草のような線を一気に増やし、作品を完成させました。
表している間に何度も自分の作品を見つめているJさんの眼差しが、とても印象に残りました。自身と対話をしているかのように感じられたからです。
「成長する思考」
Jさんは作品に「成長する思考」というタイトルをつけました。私は、Jさんのタイトルに驚かされました。さらに作品に添えられた言葉を何度も読み返し、作品に見入りました。
以下は、Jさんが作品に書いたコメントです。
上に光があります。
下に生えている思考の根が、光に向かって成長しています。
よく成長した思考や小さい思考の根があり、
その一つ一つがしっかりと思ったり、考えたりしようとしています。
材料・用具
児童:水彩絵の具、接着剤、はさみ
教師:画用紙、版画和紙、波段ボール、つや紙、刷毛、ハブラシ、ビー玉、水性クレヨン等
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