· 

第三四回 放課後の学校クラブ 第13回 子どもたちの言葉から生まれるもの

 

 

「なむはむだはむ展」を見て

 

「なむはむだはむ展」の会場風景
「なむはむだはむ展」の会場風景

 先日、太田市美術館・図書館で開催されていた「なむはむだはむ展『かいき!はいせつとし』」 [i] を鑑賞してきた。チラシによれば、「なむはむだはむ」とは、「子供たちのアイデアを大人たち(プロのアーティスト)がなんとか作品にする」ことをコンセプトとするプロジェクトであり、2017年から実践されてきた。

 どこか《放課後の学校クラブ》にも通じる気配を感じて足を運んだわけだが、これが思った以上に刺激的だった。展示室に入ると、壁面には子どものような文字(これもやや偏見かもしれないが……)で「いろいろのけいけんおしてきたからおわびにたのしいことおいっしょにやりましょう」と書かれていた。こうした一種の「たどたどしさ」が展示室のいたるところに散りばめられている。

 その文字を背に、ギャラリーの中央に展示された不思議なオブジェ。これは、「くりっらがおれた」という言葉に添えられたイメージを作品化したものである。子どもたちと活動していると、言い間違いや書き間違い、あるいは少ない語彙による言い換えなど、面白い言語表現に遭遇することも少なくない。

 学校教育の現場では、それらはしばしば「間違い」として正しい答えに訂正される。ただし、ここではそうした言葉のズレさえもひとつの表現と見なし、アーティストが真正面から向き合っていた。その「たどたどしさ」と「おかしみ」の往還に微笑みながら鑑賞していた

 

 

《放課後の学校クラブ》と比べてみる

 

 ちょうど、「なむはむだはむ展」に行った翌日に《放課後の学校クラブ》の活動があったため、つい両者を比較してしまう。例えば、子どもたちの必要なものリストに「くりっら」と書かれていた時、自分だったらどのように対応するだろうか。文脈に応じて、それを勝手に「くりっぷ」と変換してしまうかもしれない。少なくとも、「くりっら」のままつくりだすことはしない。

 ここには、子どもの言葉の「翻訳」をめぐるテーマを見出すことができる。「なむはむだはむ」の場合、子どもたちの言葉が発想源(原作)となり、大人(プロのアーティスト)はそこから様々な視点を「深読み」していく。原作者と演者が異なる演劇的なアプローチと言えるのかもしれない。

 一方、《放課後の学校クラブ》の場合、子どもたちの言葉を形にしていくのは子どもたち自身である。その意味において、原作者と演者は同一である。筆者も含めて、そこに関わる大人はサポート役にまわる。とは言え、子どもたちの言葉はその時々に流れて更新されていくものであり、今日のアイデアが明日に引き継がれるとは限らない。

 それゆえに、継続的なプロジェクトとして成立させていくためには、そこで生まれた言葉を拾い上げたり、記録を促したりしながら、それとなく方向付けをしていくことが必要になる。その際、例えばある言葉が「くりっら」なのか、「くりっぷ」なのか、それともその両者でもない何かなのかを確認しつつ、その最終的な決定は子どもたちに委ねていく。

 

 

「春の花感謝祭」に向けて

 

 そのようなわけで、今日も《放課後の学校クラブ》では子どもたちの等身大の行為に寄り添う。今回は、4月30日に開催予定の「春の花感謝祭」に向けた広報活動。前回、入学希望者がいなかったことから、いつもより力が入っていた。

話し合い
話し合い

 新入生をメインターゲットに据えているため、部員の妹(新1年生)にインタビューしながら話し合い。「お店屋さんがいい」というコメントから、教室で使えるクーポン券のプランが広がる。他にも「学校かるた」というキーワードも出ていた。さてさて「春の花の要素はどこへ」という疑問も浮かぶが、ここは口出しせずにお任せ。


板書の様子
板書の様子

 さらに、チラシやポスターに掲載するため、分かりやすくタイムスケジュールも組み立てていく。前半と後半の二部に分けて、それぞれ30分ずついくつかの「授業」をまわる。その間に「かるた作り」の時間を設けて、最後に「かるた大会」をするという段取りだ。過去の課題を踏まえてか、何となくおもてなしの要素が強い。


 その後、チラシづくり、ポスターづくりなどの役割分担をして、さっそく準備へ取り掛かる。かるたづくりチームは、いつもの学校に関する情報をもとに迷うことなく読み札をかいていく。凧をつくってアピールしようとビニール袋やスズランテープを使って試作する部員もいた。

チラシも完成
チラシも完成
凧をつくってPR
凧をつくってPR

 これと並行して、それぞれの「授業」もぬかりなく。今日のハイライトは、紙でできた花を回転させる仕組みづくり。モールをストローに通したり、形を変えたり、試行錯誤を繰り返す。そんな中、とある部員が「こうすればいいんじゃない」といって花に折り目を入れたところ、くるくるとまわり始めた。これまでの経験を踏まえてか、はたまた偶然か、いずれにせよ「なかなかやるな」と感心。

 次回の「図工のあるまち」では、当日の様子をレポートする。どなたでも自由に入学できるので、ぜひとも広報活動にご協力いただきたい。

 


[i] https://www.artmuseumlibraryota.jp/post_artmuseum/183871.html

なむはむだはむ展『かいき!はいせつとし』 太田市美術館・図書館 会期:2023年2月18日(土)~5月7日(日)

インフォメーション

 

放課後の学校クラブ「春の花感謝祭」

日時 2023年4月30日(日)14:00-16:00

会場 水戸市立浜田小学校コミュニティ室(水戸市浜田1丁目1-1)

※ご参加を希望される場合は、以下の連絡先までメールにてご連絡ください。

お問い合わせ先:ichikawa.hiroya@gunma-u.ac.jp

気まぐれ読書案内

 

太田市美術館・図書館(企画制作)『なむはむだはむ展『かいき!はいせつとし』公式パンフレット』2023年

展覧会の図録、というよりも、映画や演劇のパンフレットのように、出展者の言葉や子どもたちの言葉など、多くのテキストによって構成された1冊。「くりっらがおれた」というフレーズが抽出されたプロセスについても座談会で語られています。かつての参加者に数年を経てインタビューした記事にも注目です。

 


 

図工のあるまちそのほかのコンテンツはこちらから

    

第12回<放課後の学校クラブ>第14回