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第五十六回 放課後の学校クラブ 第23回 「夜空のおばけ動物学校」大混乱編

みんなで「教室」をつくる

 

 クリスマス直前の12月22日。いよいよ「夜空のおばけ動物学校」の本番を迎えた。いつものように、部員は午前中から集まって準備を進めていく。今回は、いつも使っているコミュニティ室に机やイスを並べて教室全体を迷路のように設える計画になっていた。

 子どももおとなも一緒になって空間をつくることから活動開始。ドアを入って手前側は5年生部員による「ホーンデットホテル」ゾーン。折りたたみ式の机を並べてジグザグな通路を確保していた。

会場準備1
会場準備1

 一方で、黒板側の空間は低学年チームによる「おばけ動物めいろ」の担当エリア。とは言え、肝心の部員たちは参加者にわたす景品づくりに集中していたため、おとな部員(保護者チーム)を中心にイスを並べながら迷路をつくっていった。「こんな感じでいいの?」と確認しつつも、手元の作業に没頭して上の空。紙でできた雪の結晶のようなものを量産していた。

 

景品を量産中1
景品を量産中1
景品を量産中2
景品を量産中2

 

 そして兄妹2人組による「カービーマン」チームは今日も自由に活動中。妹さん(未就学児)と「おばけ動物めいろ」を担当しているはずの1年生がコンビを結成し、「きれいでしょ」と言いながら大量のスパンコールをビン詰め。「いったい何に使うつもりなんだろう?」と思いつつ、「いいねぇ」と声を掛けておく。「そもそもカービーマンとは?」という疑問に対しては、ついに答えを引き出すことはできなかった。

 なんだかんだ言いつつ時間は過ぎ去り、おおよそ「教室」の全貌が見えてきたところでお昼休み。ちなみに、「カービーマン」のお兄ちゃんは午後に予定があるとのことで一時退出。このことが後の大混乱の伏線となっていたことを、この時は知る由もなかった。

 

 

直前までぬかりなく

 

 午後3時の開校まで残すはあと1時間30分ほど。準備にも拍車がかかる。「ホーンデットホテル」チームは、机の上に黒いポリ袋を渡してトンネルをつくったり、段ボールの屋根をつけたり、細部にもこだわっていく。ご存じ「メデュ・メデュサ子」や「がいコツオ」のほか、「きつきつお」「いといくもお」などの個性豊かな宿泊客もそこかしこにチェックイン。

 

 

 そして、「おばけ動物めいろ」チームも、いよいよ「めいろ」があまり仕上がっていないことに気付き始めたようだ。イスの背もたれに立てかけた段ボールに絵をかきながら空間をつくっていく。お姉さんチームに触発されて子どもサイズのトンネルも登場。

 

 午後2時を過ぎた頃からリハーサル。まずは昇降口を入ったところにある「ホーンデットホテル」の受付から。机の裏側にはしっかりと台本も準備万端。

 

 

ホーンデットホテルのレセプション
ホーンデットホテルのレセプション
レセプションの裏側
レセプションの裏側

 

ようこそ…ホーンデットホテルへ…このホテルは、昔、とても大金持ちの夫妻が住んでいた家でした。ですが、数年後…となりの国の王女がその家を買いとってしまいました。……

 

 こうした世界観から始まる説明を聞いた上で、1枚の紙がわたされる。そこには「メデュ」や「きつ」など謎の言葉が書かれている。どうやら、ホテルを巡りながらそれぞれの本名を調べていく仕組みになっているらしい。

 

 教室の中では、トンネルをくぐりながら通路を進み、各所に点在する宿泊客を探していく。該当の名前を見つけたら、紙に記入し、段ボール製の乗り物で移動。前回までの活動で試行錯誤を繰り返してきた1号機だが、新たにロープを仕入れて何とか引っ張ることができるようになった。とは言え、おとな部員が乗るのは心もとないので、子ども部員同士でシミュレーション。ちなみに、本番はおとなが人力で対応するオペレーションとのこと。

ホーンデットホテルの台本
ホーンデットホテルの台本
1号機のシミュレーション
1号機のシミュレーション

 ここから先は「おばけ動物めいろ」のエリア。矢印に従ってスタート地点に来てみたものの、担当部員はわらわらと作業中。しばし待ちぼうけの上、ようやくリハーサルが始まる。迷子の動物たちを親元に届けることや道中に落ちている何かを集めることが伝えられた。せまいトンネルをくぐってゴールすると、景品がもらえるという段取りになっている。

おばけ動物めいろの景品
おばけ動物めいろの景品

 

 

まさかの大行列

 

開校間近の午後2時50分。カーテンを閉めて暗転すると、教室全体が秘密基地のようにも見えてくる。嵐の前の静けさといったところだろうか。すると、廊下の方から「なんかたくさん並んでる」という報告が。教室の外に出てみると、既に10名ほどが受付で開始を待ちわびていた。「これは大変」と再び中へ入り、受け入れ態勢を最終確認。

 

  午後3時少し前に「ホーンデットホテル」のレセプションがオープン。先頭に並んでいた二人組に台本通りの説明をしてミッションの記された紙を渡す。ガイコツのようなものに誘われて教室に入ると、まずは全体の受付を済ませて入学。トンネルをくぐり、レセプションで渡されたライトを手掛かりに名前を探していく。部屋全体が暗くなっていることで難易度もアップしていた。ようやく見つけたら、人力アトラクションに乗車して答え合わせ。

開校直前の様子
開校直前の様子

 

 そうこうしているうちに、次に並んでいた五人組も入学。「こっちかな」「どこだろう」と話しながらあっちに行ったりこっちに行ったり。「おっとそっちは通れないことになっているよ」などと言いつつ、様子を見守る。一組目は、早々と「おばけ動物めいろ」に挑戦しているようだ。実はこちらも、道中に落ちているものは親指サイズの小さなオブジェ。果たしてこの暗さで見つかるだろうかと心配しながら眺めていた。

 

 その後も入学者が途切れることはなかった。一度教室の外に出てみると、なんとびっくり。本家の某テーマパークさながら、数十人の長い行列ができていた。おそらく、「放課後の学校クラブ」史上最長の行列である。「これはいよいよ大変なことになったぞ」と思いつつ、思わず靴であふれる昇降口を撮影。

入学の様子
入学の様子
靴であふれる昇降口
靴であふれる昇降口

 

 

カオスの「教室」

 

 もちろん、特別選抜などをすることもなく、誰でも入学のスタンスはそのままに、この状況を文字通りスリリングに楽しんでみることにした。まさにスリラー。結果的に、「ホーンデットホテル」のミッションのほどよい難易度もあいまって、教室はぎゅうぎゅう詰め。1号機の移動式アトラクションも、保護者の皆さんに手伝っていただきつつ、現場は大混乱。


 

 さらに、「おばけ動物めいろ」でも問題発生。次から次へと「生徒」が押し寄せるため、動物たちや小さなオブジェなどを迷路の中に戻しに行くタイミングが取れず。そのまま人波に押されるように突破する子どもたちも現れ、やはり現場は大混乱。しまいには、一度ゴールした子どもたちに声を掛けて、一緒にサポートする側にまわってみる、といった場面もあった。

 

おばけ動物めいろに挑戦中1
おばけ動物めいろに挑戦中1
おばけ動物めいろに挑戦中2
おばけ動物めいろに挑戦中2

 

 さらにさらに、「カービーマンって何ですか?」という禁断の質問も。「おばけ動物めいろ」のゴールの先にあらわれる秘密の小部屋のようなエリアがそれなわけだが、実のところ誰も「カービーマン」の正体を知らない。もし、問いを生み出すことにアートの本質があるのだとすれば、ここには確かにアートなるものが存在しているのかもしれない、などと悠長なことを言っている暇もなく……

 

 そのような中、お兄ちゃんの代わりに「カービーマン」を守ってきた妹さんから「さいてーなおとこがいた」という申し出が。果たして何が起こったのだろうか。この日はそのまま帰ってしまったのだが、後日、本人に聞いても何のことやらといった表情。保護者経由で尋ねたところ、どうやら「よくわからない」などと言われたらしい。

 

 仮に自由自在にスパンコールを使っていたとしても特に何も言わず、いつでも何でも受け入れる「放課後の学校クラブ」の日常的な活動に対して、発表の機会では時にいろいろな人と向き合わなければならない。高学年部員になると、そのような状況も含めて乗り越えていけるのかもしれないが、低学年の児童や、まして未就学児にはなかなかにハードな現場であったことは間違いない。

 

 

いつもの教室へ

 

 午後4時を過ぎた頃には、行列も解消し、ようやく落ち着きを取り戻してきた。当初の予定では午後5時を閉校時間としていたが、部員一同お疲れモード。実は、今回のチラシにはこっそり「おかし引換券」もつけていたのだが、50個以上は用意していたにもかかわらず、在庫も尽きつつあった。「もう電気つけてもいいですか」と声を掛けてくる部員もいたが、「30分くらいまではこのままにしておこうか」と引き留める。

 

 ほどなくして、「カービーマン」のお兄ちゃんが再登場。とりあえず、妹が「さいてーなおとこ」に出会ったエピソードを伝えておく。ちなみに、この日は去年の3月に小学校を卒業した中学生2名も遊びに来てくれていた。部屋に明りが灯った頃には現在高校2年生の元部員も駆けつけ、歴代部員で後片付け。先ほどまでの混沌たる空間が真冬の午後の夢だったかのように、あっという間にいつもの教室に元通り。

 

 一息つくと改めて「なんであんなにたくさん来てくれたんだろう」という素朴な疑問が脳裏をよぎる。このふりかえりは、また別の機会に設けることとしたい。

みんなで片付け
みんなで片付け

 

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