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第一回 金ケ崎芸術大学校「ずこうの時間」1時間目

城内諏訪小路重要伝統的建造物群保存地区
城内諏訪小路重要伝統的建造物群保存地区

金ケ崎町について

 

読者の皆さんは岩手県内陸南部に位置する金ケ崎町をご存じだろうか。悠久の北上川を望む台地には、かつて仙台藩の要害(城)が築かれていた。現在も当時の町並みが残されていることから、2000年には国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定された。この地域の伝統的建造物は、侍住宅でありながら敷地内に畑を備えた「半士半農」というキーワードによって特徴づけられる。

 

筆者はここ10年程この町でフィールドワークに取り組んできた。金ケ崎町と言えば、1979年に全国に先駆けて「生涯教育の町」を宣言し、社会教育界隈では名の知られた自治体でもある。そのような土地柄もあって、住民主体の学びが展開されてきた。とは言え、筆者が調査してきたのは必ずしも教育に関することではない。実は、この町では毎年夏になると江戸の町並みに紛れて「幽霊・化け物・妖怪画展」が開催されているのである。企画をしているのは住民有志によって結成された「金ケ崎まちづくり研究会(通称まち研)」[1]である。大学院生時代にこの展覧会の調査に訪れてから金ケ崎との長い付き合いが始まった。


「金ケ崎芸術大学校」外観
「金ケ崎芸術大学校」外観

金ケ崎芸術大学校の誕生

 

つかず離れずの関係を続ける中、数年前に1軒の侍住宅を活用する機会を得た[2]。先ほどの「まち研」のメンバーとの話し合いを進める中で、侍住宅を地域に開かれた学びの場として開いていくという構想が浮かび上がってきた。場づくりに向けて参照したのは宮沢賢治が花巻の北上川沿いに設立した「羅須地人協会」である。農学校の教師の職を辞した宮沢賢治は、一軒の民家で独居自炊の生活を送りながら、農村生活の改善や農民芸術の実践に勤しんだ。生活空間と生産空間が共存する侍住宅には「羅須地人協会」にも通じる要素が詰め込まれているのではないだろうか。このような発想から壮大な妄想が始まる。

 

 

藍の時間(2019年5月12日)の様子
藍の時間(2019年5月12日)の様子

 まずはこの家を「金ケ崎芸術大学校」と名付けることとした。これはもちろん学校教育法において定められるところの教育機関ではなく、妄想上の学び舎である。芸術大学校としての「開校日」には、地元の方や学生などが得意なことや興味のあることを持ち寄り、それぞれの時間を過ごす。とは言え、何か特別に大きなことを始めるのではなく、無理せず自然体を心がけて。近所の染色愛好家が講師を務める「藍の時間」には、敷地内の畑で藍を栽培し、秋には収穫した藍葉で染色を行った。この他にも受講者が持ち寄った割れた器を漆でつなぐ「金継ぎの時間」や庭園を眺めながらジオラマをつくる「お庭の時間」などを開いてきた。

図工室(仮)予定地
図工室(仮)予定地

ずこうの時間の試み

 

2020年7月。その一環として新たに始まったのが「ずこうの時間」である。これは侍住宅の一室を「図工室(仮)」として改装するプロジェクトである。1回目は「せっけい」の時間と題して行った。大学生の参加者を中心に「図工室(仮)」に必要な要素をあぶりだしていく。「写真スタジオがほしい」「プラモデルをつくりたい」「版画を刷りたい」など、それぞれのやってみたいことから備品をリストアップしてみる。その後、家でできることやできないことなどを振り分けながら仮想のプランが組みあがっていった。

次回の予定は「さぎょう」の時間。試しに備品に触れながら使い勝手を検討する。さてさてどのような「図工室」がつくられていくのだろうか。乞うご期待。

 

金ケ崎芸術大学校のサイトはこちら https://kanegasaki-artcollege.jp/

 

 

 

 

気まぐれ読書案内

宮沢賢治と言えば「銀河鉄道の夜」や「注文の多い料理店」など多くの名作が読み継がれています。筆者が小学生の頃には国語の教科書に「やまなし」が掲載されていました。そのような中でも、金ケ崎芸術大学校が教科書代わりに用いているのが「農民芸術概論綱要」です。童話の世界観とは一味違う賢治の芸術論に触れることができます。

    <金ヶ崎芸術大学校>第二回


[1] 2007年に地元住民によって結成されたボランティア団体。展覧会や歴史講座などを開催するとともに、伝建群内の保存物件の復元公開にも取り組んできた。

 

[2] 事業の実施にあたっては、公益財団法人トヨタ財団(2019年度~2020年度)、公益財団法人福武財団(2019年度)、一般財団法人ハウジングアンドコミュニティ財団(2020年度)の助成を受けて行っている。