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第二一回 金ケ崎芸術大学校 第九回「卒業記念展in金ヶ崎」

 

 

卒業の季節

 

 新型コロナウイルスの感染拡大の収束も見えない中、気付けばもう3月。今回は金ケ崎芸術大学校の卒業企画をレポートする。

 

  金ケ崎芸術大学校にはいつでも誰でも入学できるため、基本的には「卒業」というシステムは設けていない。ただ、今年は立ち上げ当時から深く関わってきたメンバーが大学を卒業する節目にあたるため、地元の方々に向けて卒業記念展を開催する運びとなった。

 

 

 ここで改めて金ケ崎芸術大学校のあゆみをふりかえると、その出発点は2018年まで遡る。当時、筆者は山形にある東北芸術工科大学で教鞭をとっていた。そのような折、2011年頃からフィールドワークを行ってきた金ケ崎町にて、一軒の古民家(保存物件)を活用する機会を得た。前職では主に社会教育関連の科目を担当していたのだが、金ケ崎が「生涯教育の町」を宣言していたことも重なり、ここを学びの場として運用していく方針を定めた。

金ケ崎芸術大学校発足当時の活動風景
金ケ崎芸術大学校発足当時の活動風景

 

 

大学校での学び

 

 新しく立ち上がったプロジェクトであるため、時間をかけて関係性を構築していくことを想定して、当時の1年生にも積極的に参加を呼び掛けた。

 同じ東北とは言え、山形と金ケ崎との距離は決して近くはない。山形から仙台までバスで約1時間。そこから一ノ関行のバスに乗り換えて約1時間半。さらにJR東北本線に乗り換えて30分ほど電車に揺られてようやく金ケ崎駅に到着だ。駅から大学校までは徒歩で約15分。乗り換えの時間を加味すると、片道4時間以上をかけた小旅行となる。

 

 もとより大学の授業とは一線を画してはいたものの、筆者が大学を異動して以降は完全に有志の参加者による活動となった。また、2020年以降は新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、何度となくプロジェクトにブレーキがかかった。それでも数十回にわたって大学と大学校とを往復しながら屋台骨を支えてきたメンバーである。

 

 各学生の大学校との関わり方は様々だ。それぞれの学んでいることや得意分野を活かして「開校日」をひらいたり、他の学生や住民の活動をサポートしたり、記録写真を撮影したり……こうした一つひとつのアクションの集合体が金ケ崎芸術大学の輪郭として浮かび上がってきた。

 

 

 中には卒業制作の一環として、金ケ崎を舞台にした作品をつくったり、金ケ崎芸術大学校でのワークショップに取り組んだりした学生もいた。2021年に複数回にわたって開催された「模型の時間」もその一つである。

 

「模型の時間」の様子
「模型の時間」の様子

金ケ崎芸術大学校点景

だがしのじかん
だがしのじかん
大工の時間
大工の時間

図工の日
図工の日
金ヶ崎要害鬼祭
金ヶ崎要害鬼祭

 

 

卒業記念展について

 

 今回の卒業記念展では、金ケ崎の皆さんに学びの成果をお披露目する機会となることを目指した。そのため、いつもの侍住宅から飛び出して、金ケ崎町立図書館や金ケ崎要害歴史館などの公共施設も会場としてお借りした。再びの感染拡大によりこれらの公共施設については町民限定の公開となってしまったものの、展示をご覧になった方からの激励のメッセージも届いた。

 

 出展した6名の学生は、それぞれの個性の優れる方面において作品を発表している。大学で漆芸を専攻する学生は、金ケ崎芸術大学校で実践したワークショップの成果を踏まえた《或る生活者の日記》を歴史館にて展示した。自身が主宰する《生活者工房》というプロジェクトでは、「ワークショップ」という言葉を本来の意味である「工房」に引き戻し、近隣住民とともに漆芸や陶芸などに取り組んでいる。

 

 

《生活者工房》によるワークショップの様子
《生活者工房》によるワークショップの様子
金ケ崎要害歴史館における展示《或る生活者の日記》
金ケ崎要害歴史館における展示《或る生活者の日記》

 

 あるいは、「模型の時間」の講師を務めた学生による《ワカツキ模型店》は、文字通り当人にとっての理想の模型店を実体化した作品である。ただプラモデルを販売するだけではなく、ジオラマの技法を用いたワークショップや、塗装の技術を追体験することもできる。本展では、図書館に案内所を設けるとともに、大学校の一室が模型店へと姿を変えた。

 

金ケ崎芸術大学校に開店した《ワカツキ模型店》
金ケ崎芸術大学校に開店した《ワカツキ模型店》
金ケ崎町立図書館における展示《ワカツキ模型店案内所》
金ケ崎町立図書館における展示《ワカツキ模型店案内所》

 

 他にも、金ケ崎芸術大学校を撮影し続けてきた学生による写真展など、メディアも手法も様々な作品が町内各所に散りばめられた。このプロジェクトに参加していなければ、おそらく足を踏み入れることもなかったであろう金ケ崎だが、4年間の活動を通してすっかりなじみの町となった。

 

金ケ崎町立図書館における展示《私の本箱》
金ケ崎町立図書館における展示《私の本箱》
金ケ崎町立図書館の児童書コーナーにおけるワークショップキットの展示
金ケ崎町立図書館の児童書コーナーにおけるワークショップキットの展示

 

 

芸術大学校のこれから

 

 冒頭にも述べたように、金ケ崎芸術大学校には「卒業」というシステムは設けていない。強いて言えば、別の場所に独自の「大学校」を構えた時に晴れて卒業が認められる。今回の出展者も、4月からめいめいの土地での新たな生活が始まるわけだが、近い将来に姉妹校が誕生する日を少しだけ期待している。

 

 さて、金ケ崎芸術大学校では卒業するメンバーを見送りつつも、次なる企画に向けて準備を進めている。来年度からは、大学生というよりも地元の皆さんが主役になる「開校日」がメインになっていくのかもしれない。さっそく、折り紙やフィギュア、哲学など、新たな時間も始まる予感。

 

 それぞれのまちで力を蓄えた皆さんがいつでも戻れる場所であり続けるように、歩みを止めずに無理なく頑張っていきたい。

 

金ケ崎要害歴史館における展示《金ケ崎の夏休み》
金ケ崎要害歴史館における展示《金ケ崎の夏休み》

 

追伸

 

 と、この原稿を書いている最中、3月16日の深夜に再び東北地方を大きな地震が襲った。20日には金ケ崎に集まる計画を立てていたが、安全第一で中止せざるを得なかった。人生波乱万丈だが、これからに幸多からんことを祈りたい。

 

 

 

卒業記念展in金ケ崎

 

 

会期 2022年3月6日(日)~27日(日)

会場 金ケ崎町立図書館、金ケ崎要害歴史館、白糸まちなみ交流館、金ケ崎芸術大学校

出展者 庄司知生、若月匠、富樫瑞紀、髙野奈美、熊田敏秀、番匠朱

 

※新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、町の公共施設(町立図書館、要害歴史館、まちなみ交流館)の3会場については町民限定での公開となっております。金ケ崎芸術大学校のみどなたでもお入りいただけます。

 

 

 

図工のあるまち

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