· 

第三二回 金ケ崎芸術大学校 第十三回 金ヶ崎要害鬼祭2023

 

 

鬼を描く

 

 金ケ崎の冬の新たな年中行事を目指して2021年に始まった「金ヶ崎要害鬼祭」。昨年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で中止となったため、2年ぶり2度目の開催となった。鬼のような寒波が襲来する中、寒さにも負けずに取り組んだ小さなお祭りのとある一日の記録を綴る。

 

 今年の鬼祭では、ずっとあたためてきたプロジェクトに着手した。その名も「はりかえビエンナーレ」。江戸時代に建てられた古民家を拠点とする金ケ崎芸術大学校は、部屋をぐるりと障子が取り囲む。にもかかわらず、設立から間もなく5年を迎える今まで、一度も障子を張り替えたことがなかった。ところどころ破れも目立つ。そろそろ頃合いだろうということで、せっかくならその前に大きな絵をかいてみようという試みである。

 そこで、昨秋の「城内農民芸術祭」にて灯籠づくりを担当したねぶた作家の太田空良さんに声を掛け、金ケ崎にもゆかりのある「大工と鬼六」をかいていただくことにした。鬼は、ねぶたにもしばしば登場するおなじみのモチーフとのこと。当日は、公開制作よろしく、まずは墨で輪郭をかきすすめていった。縁側からかいているため、部屋の中から見ていると、文字通り鬼が浮かび上がってくるような不思議な感覚。

 

 

 

 障子をキャンバスに

 

 鬼祭に遊びに来ていた子どもたちも、障子の向こう側から鬼が現れる様子をじっと眺めていた。当初は、参加型で大きな絵をかくことも想定していたが、思った以上に本格的な作品が仕上がりそうだったため、ここはひとまず太田さんにお任せ。とは言え、やっぱり障子に絵をかいてみたい、ということで少し離れた障子を開放。とりあえず、この建物も文化財なので柱はしっかりと養生しておく。

 

 今や障子がある家は少数派。仮にあったとしてもそこに絵をかくなど言語道断である。そのようなちょっとした背徳感も手伝って、とても楽しそうに筆が走る。雷神のような鬼からかわいらしい水色の鬼までヴァリエーションも豊かだ。破れやすい障子紙の特性を生かして、目や口の部分に穴をあけるなどやりたい放題。反対側から見てみると、この開口部が図らずも怪しさを倍増させていた。

障子にあらわれる鬼を眺める
障子にあらわれる鬼を眺める

▲子どもたちも鬼をかく

そうこうしているうちに、「はりかえビエンナーレ」も順調に進行中。「大工と鬼六」を象徴するモチーフである橋にあわせて、画面の中央に大きな松がどっしりと構える。ねぶたでも用いられる「蝋書き」[i] された線が外の光を透過する。少しずつ色もつき始めてワクワク感も高まってきた。

赤く彩られる鬼
赤く彩られる鬼

 

 

食べたり聞いたり

 

 今回の鬼祭も、いつもながら多くの方々の協力によって支えられていた。隣町の胆沢にある天屋農園さんは、雑穀おにぎりのおふるまい。黙々と筆が進む障子を背景に、七輪でおにぎりを焼いていく。自家製のお味噌をつければ、もくもくとおいしそうな香りが漂う。

 

 

七輪で雑穀おにぎり
七輪で雑穀おにぎり

 腹ごしらえをしたら、午後には近隣の小学校などで読み聞かせを行う武田洋子さんによるおはなしの時間。こたつに入ってぬくぬくと、「泣いた赤鬼」など東北にゆかりのある鬼のお話に耳を傾けた。この日のために、とある妖怪研究家の蔵書から鬼関連資料を持参していたのだが、その中にあった「大工と鬼六」の紙芝居もリクエスト。同じ題名でもところどころ話が違う。

 

 

 

こたつでおはなしの時間
こたつでおはなしの時間

  障子を1枚隔てたこちら側では紙芝居を演じ、あちら側では鬼六を描く。いろいろな時間が同時多発的に交錯するその様子は、小さいながらも確かにお祭りであった。気付けば、鬼もすっかり赤く色づき、こちらをじっと見つめている。 

障子1枚を隔てて
障子1枚を隔てて

 

 

暗闇に浮かぶ鬼六

 

 日も少しずつ暮れはじめ、「はりかえビエンナーレ」もクライマックス。そもそも、「大工と鬼六」は鬼の力を借りて暴れ川に橋を架ける物語である。金ケ崎芸術大学校も、すぐ近くに北上川が流れているため、環境を重ねながら読んでみるのも面白い。今回は、川から現れた鬼が大工に提案を持ち掛けるシーンと名前を当てられた鬼六が川に戻っていくシーンを選び、障子4面を使って物語絵巻のようにあらわされていた。

 外では雪がしんしんと降り続き、ガラス戸を通して冷気がじわじわと浸透してくる。午後5時をまわる頃にはあたりもすっかり暗くなってきた。すると、障子が家の中の光を透過して見え方もがらっと変わる。庭先から眺めてみると、あたかも建物自体がねぶたのようだ。金ケ崎の新しい名所になるかな、などと話しながらしばし鑑賞。

 

 これはもうしばらく張り替えは見送ることになりそうだ。

 

外が暗くなるまで
外が暗くなるまで
細部の仕上げ
細部の仕上げ

庭先から眺める
庭先から眺める

 

 

気まぐれ読書案内

 

大西廣(文)梶山俊夫(絵)『鬼が出た』福音館書店、1989年

雑誌『たくさんのふしぎ』シリーズの一つとして鬼にスポットを当てた特集号。子ども向けの本と言ってあなどることなかれ。《百鬼夜行絵巻》《融通念仏縁起絵巻》などの絵画資料もふんだんに使われており、鬼について深く知るための入門編として大人にもおすすめの1冊です。なんと、日本にとどまらず、世界の鬼(のようなもの)についても紹介されています。

 



 

[i] 溶かしたロウを和紙に塗ることで、顔料や染料をはじくようにする工程。輪郭に沿って施されることが多く、ロウを塗った個所は和紙本来の色(白)が残り、光を透過するようになる。

 

お問い合わせ先

金ケ崎芸術大学校

〒029-4503 岩手県胆沢郡金ケ崎町西根表小路9-2

電話:080-7225-1926(担当:市川)

 

メール:kanegasakiartcollege@gmail.com

 

図工のあるまち

そのほかのコンテンツはこちらから

 

    第12回<金ケ崎芸術大学校>第14回      

コメントをお書きください

コメント: 2
  • #1

    天屋農園 (木曜日, 20 4月 2023 22:51)

    七輪でお邪魔しました。障子に炭火が優しく似合います。雑穀の宣伝に、よくイベントの片すみをお借りしますが、これはいい雰囲気で、これから楽しみです。また是非お声かけてください。

  • #2

    図工のみかた編集部 (火曜日, 16 5月 2023 16:23)

    天屋農園様

    コメントありがとうございます。
    返信が遅くなり申し訳ありませんでした。

    七輪と屋敷の相性は抜群でしょうね。
    いろいろな方が出入りされるのが金ヶ崎芸術大学校の醍醐味の一つだと思いますので
    引き続きよろしくお願いいたします!!