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第三九回 金ケ崎芸術大学校 第十五回 とある小学生の「小学生ウィーク」の過ごし方

 

 

遠い場所と近い場所

 

 前回の「図工のあるまち」では、水戸市の小学生が金ケ崎に修学旅行に赴いた様子をレポートした(こちらから)。片道5時間を超える道のりは、そうやすやすと往復できる場所ではない。「旅の恥はかき捨て」とはよく言ったもので、子どもたちにとっては遠く離れた非日常の世界である。もちろん、かき捨てるようなことはしていないが……。

 

 一方で、大学校の近くに住んでいる子どもたちにとって、この場所は日常の延長線上にあるため、何度も行き来しながら活動に参加することができる。それは、水戸の子どもたちにとっての《放課後の学校クラブ》にも似ている。金ケ崎芸術大学校にも、そのような地理的なメリットを生かして「図工の時間」などに度々足を運んでくれる子どもたちがいる。今回は、そのような常連さんの中でも「小学生ウィーク」にほぼ毎日参加していた2年生にスポットを当てて、金ケ崎芸術大学校の幸せな使われ方を見ていきたい。

 

 

 版画でポスターをつくったり

 

 1日目は「版画でポスターをつくろう」に参加。いつになく知らない人がたくさんいる状況に、なかなか部屋に入ることができずにそわそわ。そんな時は、無理せずに、お庭を散策するなどして時間を過ごす。そうこうしていると、ワークショップの参加者もあまりの暑さに負けてブレイクタイムに突入。みんなで冷たい飲み物を飲んだり、甘いものを食べたりしているうちに、少しずつ慣れてきたようだ。

 ちなみに、この日は「ちょっとフシギなもうひとつの学校」をテーマに版をつくっていく活動を行った。まずは、修学旅行生と一緒に水戸からお越しいただいたグラフィックデザイナーの石井さんと話し合いながら、アイディアを出し合う。「虫が歩いている」「おとまりできる」「学校の中に自然がある」などなど、いろいろなキーワードが挙がっていた。これらを分担しながら版を共同製作する段取りだ。

 

 この中から、本人の希望によりいろいろな虫をつくることに決まった。早速イメージが思い浮かんだようで、庭に出ていろいろな種類の植物を採集。一つ二つと数えながら葉っぱや茎などを袋に入れていく。「こういう形の葉っぱはないかなぁ」と裏の畑まで探しに行っていた。植物の種類が多い大学校らしさを存分に生かした使い方である。

家の中に戻ったら、集めてきた植物を組み合わせて版をつくる。今回は、紙版画をベースにしつつ、実質的には様々な素材を用いた実物版画(あるいはコラグラフ)となった。それぞれの形をじっくりと観察しながら、紙に貼り付ける。同じ葉っぱでも形は様々。広葉樹は羽に、針葉樹は脚に。ふさふさの穂を使った不思議な生物は「スカイフィッシュ」[i]らしい。

版になりそうな植物を探す1
版になりそうな植物を探す1

版になりそうな植物を探す2
版になりそうな植物を探す2
版をつくる
版をつくる
仕上がった版4種
仕上がった版4種

 2日目は午後から参加。前日につくった版を紙に刷っていく。版画家の城山さんの手ほどきを受けながら、1枚ずつインクを乗せてバレンでゴシゴシ。植物は厚みがあるため、刷りにも力がいる。「スカイフィッシュ」の一部で植物の種がはじけたためか、目のようなものが刷り上がっていた(写真を参照)。こうした意識の外側に生まれるイメージも版画の醍醐味。城山さんと「まさにシュルレアリスムですね」とひとしきり盛り上がる。昆虫図鑑のような4点の版画が刷り上がった。これらも広報物の素材として活用する予定だ。

インクをのせる
インクをのせる
刷り上がり
刷り上がり
縁側で乾燥中
縁側で乾燥中

 活動終了後、庭で実物の昆虫採集にいそしんでいると、軒先にぶらさがるトックリバチの巣を発見。《生活者工房》の庄司さんに手伝ってもらいながら、形を崩さないようにゲット。何やら構想があるらしい。ちなみに、後ほどこれはコガタスズメバチの巣の初期形態であるとのことで追加の報告が入った。

 

 

うちわをつくったりハニワをつくったり 

 

 修学旅行生が帰路についた後、「小学生ウィーク」の3日目には大人気企画の「おとまりの時間」も開催されていた。「おとまりしないの?」と声を掛けてみたものの、これにはなぜか不参加。どうやら、筆者が以前によかれと思って「妖怪が出るかもよ」といった一言が気がかりになっているらしい。不用意な発言は慎まなければいけない。

 

 ということで、次なる活動は4日目。大学校の障子に「大工と鬼六」をかいていただいた太田空良さん  を講師に迎え、ねぶたの技法でうちわをつくるワークショップに参加(障子絵の様子はこちらから)。この日はうちわづくりと並行して《生活者工房》による「ハニワングランプリ」も開催されていたため、早めにやってきて粘土をこねこね。

 このグランプリは、大学校で開催している陶芸ワークショップ「土と暮らせば」からの派生企画。金ケ崎で採取した土を使ってハニワをつくり、町内の農家で野焼きをするというものだ。実は、昨年度も深海生物の「メンダコ」をつくっていたのだが、納得のいく仕上がりにはならなかったようで……今年は何をつくろうか。初日の緊張感とうってかわって、大人がたくさんいても臆せず活動するあたり大物感を醸し出す。

 

 ほどなくしてうちわづくりが始まったため、そちらに移動。「はりかえビエンナーレ」のために用意してあった障子紙を切り取り、ポスターカラーなどを使って着彩していく。どんな絵をかくのかなと思ったら、まさかの折り染め。臨機応変にいろいろな手法を試している点に感心した。これに太田さん直伝の筆遣いを駆使して、グラデーションのついたパターンを追加していく。

最後はねぶたに特徴的な技法である蝋がきにも挑戦。この過程を経ることで、蝋のついた部分が光を透過するようになりねぶた感が増す。うちわになってから太陽にかざしてどのように見えるかもお楽しみの一つ。蝋を溶かすための熱源もあいまって、とても暑く密度の濃い一日であった。

 

ハニワ製作中
ハニワ製作中

うちわ製作中
うちわ製作中
蝋がきに挑戦
蝋がきに挑戦

うちわが完成
うちわが完成

 

 

漆を塗ったり

 

 5日目には、同じく《生活者工房》の企画による「漆にかぶれる会」が開催されていた。漆に触れるとかぶれる可能性があるため、基本的には対象年齢を15歳以上に設定しているのだが、これにも興味津々。今回は、地元の金ケ崎高校の生徒も参加していたため、「最年少メンバーですね」と話題にあがっていたところ、いきなり最年少記録の大幅更新となった。

 

 漆芸部長の庄司お兄さんに相談しながら、数日前にゲットしたトックリバチ(あるいはコガタスズメバチ)の巣に漆を塗って徳利をつくるらしい。漆に対する耐性は未知数のため、しっかりとゴム手袋を着用して作業にとりかかる。巣が壊れないようにやさしく手のひらに乗せて、内側と外側に丁寧に漆を塗っていく。果たして、どのように仕上がるのだろうか。まさに自由研究である。

 

漆の扱い方を学ぶ
漆の扱い方を学ぶ
漆芸に挑戦1
漆芸に挑戦1
漆芸に挑戦2
漆芸に挑戦2

 「小学生ウィーク」の最終日となる6日目は、海にお出かけということでお休み。大学校に行くか海に行くかで迷っていたらしいが、そこはさすがに家族での時間を優先してください……と思いつつ。ただ、金ケ崎芸術大学校が夏休みの遊び場(学び場)の候補となっているのは純粋にうれしいことである。

 

 

小学生ウィークのその後に

 

 こうして8月8日から13日にかけての「小学生ウィーク2023」は大きなトラブルもなく無事に終わった。と言いつつ、その翌日にも件の小学生は大学校に遊びに来て漆芸に取り組んでいたわけだが。このように「金ケ崎芸術大学校」を自分の場所として使い倒してもらえると、改めてこのプロジェクトをやっていてよかったな、と思う。

 金ケ崎芸術大学校は、そこに誰かがいる限りにおいて常に開かれている。その際、基本的に年齢や所属その他の属性によって参加者を区別することはしない。例外的に「小学生ウィーク」では対象を限定しているが、これも少しだけ参加のハードルを下げるための一つの仕組みに過ぎない。希望を言えば、これをきっかけにそれ以外の期間にも足を運んでほしいところだが、関わり方は人それぞれ。

 これからも、一人ひとりの時間をつくることができるように、誰かにとっての「ちょっとフシギなもうひとつの学校」であり続けたい。

 


 

[i] 長い棒状の物体が高速で空中を移動する未確認生物(UMA)の一種。

 

お問い合わせ先

金ケ崎芸術大学校

〒029-4503 岩手県胆沢郡金ケ崎町西根表小路9-2

電話:080-7225-1926(担当:市川)

 

メール:kanegasakiartcollege@gmail.com

 

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