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第四二回 金ケ崎芸術大学校 第十七回 新春準備祭2023→2024

 

 

城内農民芸術祭2023

 

 金ケ崎芸術大学校では、10月21日より「城内農民芸術祭2023」を開催していた。5回目となる今回は「家の記憶を手繰るために」をテーマに、各所で展示やワークショップなどを展開した。以前に「図工のあるまち」で取り上げた占部史人さんによる「マイ・スヰートホーム・ストーリー」もその一環である(金ケ崎芸術大学校 第十六回 マイ・スヰートホーム・ストーリー)。会期中には、地元の皆さんによる作品も商店街でお披露目した。

 2020年より継続して金ケ崎に訪れている村山修二郎さんは、旧菅原家(旧狩野家)侍住宅の庭園に《笑鹿島様》と題した野外作品を発表した。「鹿島様」とは、主に秋田県で村境に立てられる神様である。本作では、「家を守る」というタイトルのもと、庭園全体を使ったインスタレーションとなった。会期終盤には初雪も降り、紅葉とのコラボレーションを愛でることもできた。

 もとより「城内農民芸術祭」は、作品展示をメインに据えるというよりも、日々の生活から(広義の)芸術が湧き上がってくる状況を生み出していくことを目指したアートプロジェクトである。その意味では、今年もいわゆる美術と日常生活の境界が曖昧になるような場を実現することができた。


 

 

版画で年賀状をつくろう

 

 このように日常を少しだけ拡張するのが「農民芸術祭」に込めたコンセプトとなる。その最終日となる12月10日には、一つの区切りとして「新春準備祭」を行った。メインイベントは版画で年賀状をつくるワークショップ。講師を務めるのは版画家の城山萌々さんである。

 「城内農民芸術祭2023」にも、昨年に引き続き「床の間版画展」としてご参加いただいた。新たに和洋食道Ecruの大きな床の間をお借りして、リトグラフの新作を展示。そして、旧菅原家(旧狩野家)侍住宅では、チラシやポスターのメインビジュアルとなった版画を軸装した床飾りに取り組んだ。


 

 夏休みの「小学生ウィーク」と同様に、今回のワークショップでも年齢を問わずに参加できるように紙版画の技法を用いることにした。親子で訪れた参加者は、はさみで紙を切りながら「かがみもち」をこしらえる。一枚の版で単色刷りとなるため、城山さんに相談しながら色を混ぜつつ検討。最終的には橙色の版画が仕上がった。何枚も刷りを重ねながら微調整。

 

 

 そしておなじみの小学2年生は、なんと龍を彫刻した消しゴムハンコを持参。スタンプ台を駆使してカラフルな版画が仕上がっていく。さらに、雨を表現するために版を追加するらしい。歌川広重のように雨を線で表現しながら、彫刻刀でサクサク彫り進めていた。多版多色刷りの原理で複製されていく作品群。「たくさんあるから」と言って他の来場者にも大盤振る舞いで配布していた。なかなかにスマートなパフォーマンスだった。

 

 

 

歳末書き納め大会 

 

 今年度の大学校では、毎月恒例の「図工の時間」とあわせて「書を楽しむ会」を開催してきた。担当するのは、奥州市在住の書道家、佐竹松濤さんである。実際に県内の高等学校で書道を教えている先生でもある。農民芸術祭の期間中は、「松濤書道室」と銘打って旧菅原家(旧狩野家)侍住宅の一室が書で埋め尽くされた。

 当日は年内最後の活動日ということで、歳末書き納め大会を実施。これまでも「書き初め」を行ったことはあるが「書き納め」は初の試み。来年の干支を様々な書体であらわした手本が用意されていた。個人的には象形文字の「竜」に興味津々。想像上の生物の象形とはこれいかに。

 午後1時からは、テレビドラマなどを通してにわかに流行りの書道パフォーマンスも大公開。まずは、清水寺よろしく今年の漢字を書くことになった。当初は文字を公募することも検討していたが、松濤さんにおまかせした結果、「猛暑」の「猛」が選ばれた。すっかり季節も変わって忘却の彼方だが、確かに今年の夏の暑さは異常だった。来年はどうなることやら。

床に広げた大きな紙には干支にちなんで「龍跳」の二文字。墨汁が飛び散る豪快な書きっぷりに触発されてか、子どもたちも筆をとって思い思いの書をしたためる。お手本はあってもなくてもお構いなし。文字と絵の境界を行ったり来たり。とある小学生が選んだ言葉はまさかの「如来」だった。

 

 

 

新年に向けて

 

 ご近所からの参加者は、書と版画の融合に挑戦。毛筆で「龍」の文字を書き、その上からなぞるように糸を貼り付けながら版をつくっていく。なかなかに根気のいる作業だが、無事に完成。墨一色で刷ってみると、拓本のような風合いになって味わい深い。

 家庭用のプリンタであっという間に印刷できてしまう現代だからこそ、手間と時間をかけてつくった年賀状には独特の質感がある。これらが届いたその先で、受け取った人は何を思うのだろうか。来る2024年を少しだけ想像してみる。

 

 こうして金ケ崎芸術大学校の年内の事業もおおよそ完了した。「城内農民芸術祭」の作品を撤収しながら、各会場での様子を尋ねてみる。静岡や水戸など、遠方からの来訪者もいらっしゃったようで、筆者の知らないところでいくつもの交流が生まれていたようだ。さらに、期間中には仙台や福島県葛尾村からの視察もあり、新たな拡がりも期待される。

 今年は、これまで以上に多くの場所と連携しながらプロジェクトをひらいてきたわけだが、一度経験してみると「来年はもっとこうしてほしい」という想いも膨らむ。美術館のないまちで、多様な表現が受け入れられる土壌を耕していくために、雪解けの季節を見据えながら絶え間なく歩みを続けていきたい。

 

お問い合わせ先

金ケ崎芸術大学校

〒029-4503 岩手県胆沢郡金ケ崎町西根表小路9-2

電話:080-7225-1926(担当:市川)

 

メール:kanegasakiartcollege@gmail.com

 

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