真冬のおとまりの時間
12月に入ったと思ったら、いきなりの大雪で金ケ崎も一面の銀世界。紅葉とともに始まった「城内農民芸術祭2025」も、降雪とともに12月7日で閉幕となった。最終日に先立って、6日から7日にかけては「おとまりの時間」を実施した。そこかしこからすきま風が入り込む厳しい冬の暮らしを体感する宿泊型のワークショップである。
小さな作品展の出展者や近所の小学生など計4名が参加した。特にプログラムを定めていなかったため、子どもたちに「どんなことをしてみたい」と尋ねてみる。すると、ドッキリかくれんぼという提案が。かくれつつ驚かすという遊びらしい。子どもたちだけで楽しんでほしいところだが、無理やり大人チームも巻き込まれ……2つのチームに分かれて家の中でかくれる場所を探していく。
ひとしきり遊び終わったら、「何かつくってみたい」ということで夜ふかし図工の時間へ。翌日に開催される「鼓動のパレード」に向けて部屋を装飾していくことになった。4名しかいないので協力して取り組めばいいものの、なぜかチームに分かれたがる。ふすまをしめて、それぞれの部屋で準備を進めていくようだ。
パレードの準備
「鼓動のパレード」は、出展作家の村山修二郎さんの提案のもと、ダンサーの池宮中夫さんをお招きして開催される参加型のプログラムである。池宮さんは、ひと足早く12月5日に金ケ崎入り。現地を歩きながらイメージを膨らませていく。昨年度も開幕行事としてパフォーマンスを行っていただいたが、雪とともに一変した風景に驚いたご様子。
一緒に散策してみると改めていろいろな発見がある。土合丁の旧大沼家侍住宅から望むブリューゲルの絵画のような風景、反射光に照らされて蛍光する柿の実と白い雪とのコントラスト、民家の中に佇む背の低い街灯などなど。新鮮な眼差しから伝建群にパレードの舞台が見出されていく。
大学校もパレード仕様になっていく。縁側には色とりどりの衣装。さらに、太鼓やハンドベルなど、いろいろな楽器もご用意いただいた。おとまりの時間に参加した子どもたちは、早くも楽器を手にして鳴り物入り。こうした環境に呼応するように、パレードに向けて部屋を設えていく。
図工準備室にある材料や用具を使って何ができるだろうか。5年生の女子児童二人組は、こたつに入って絵をかいたり、花をつくったり。3年生と4年生の男子児童二人組は、小さい木の切れ端を組み合わせて造形物をつくったり、部屋に糸を巡らせたり。冬の寒さにも負けず、思い思いに図工の時間を続けていた。
新春準備のにぎわい
翌朝も、早くから楽器を鳴らしてパレードの準備。屋根からしたたる雪解けの音とのアンサンブルが心地よい。そうこうしているうちに、池宮さんも宿泊先からご到着。本番に向けて髪型をがっちりと固めていたため、子どもたちは開口一番に「変な髪の人が来た」とのこと。年末らしく来訪神のような装いである。
この日は14時から始まる「鼓動のパレード」に向けて11時から「新春準備祭」を開催することにしていた。毎月恒例の「図工の時間」の拡大版である。これに向けて、10時過ぎには版画家の城山さんとデザイナーの石井さんもご到着。城山さんには、おとまりの時間に参加した子どもたちと一緒に版画で年賀状をつくるワークショップをご担当いただいた。みんなでこたつを囲み、来年の干支の「うま」をテーマに紙を切り貼りしながら版をつくっていく。
11時ちょうどに「新春準備祭」の開幕を告げる書道パフォーマンスがスタート。大学校の書道の先生でおなじみの佐竹松濤さんが今年の漢字を披露する。童謡の音楽に乗せて、立てかけた大きな紙に大きな筆で揮毫された大学校の今年の漢字は「熊」である。実は、大学校が所在する伝建群エリアでも何度か熊が目撃されていた。その後、清水寺で発表された本家でも図らずも同じ漢字が選出されていた。
気付けば多くの来場者で会場も賑わっていた。家の中のあらゆる場所で様々な活動が同時並行で展開しているため、追加で机を出すなど大忙し。年末らしさが増していく。そのような中、「小さな大きな折り紙展」を開催中の及川和善さんは、大きな折り紙で馬をつくっていく。ワカツキモケイの若月さんは、ジオラマづくりのワークショップ。「金ケ崎芸術小学校の小さな作品展」に出展中の小学生もプラモデル持参でご来場。庭先では雪だるまも量産されていた。
楽屋から出てきた池宮さんは髪をピンクに染めてますますインパクトのある風貌に。村山さんも、ウコン染めのスカーフや獣よけの鈴、竹でつくった音の出る造形物や黄色い旗などを広げて準備万端。縁側では楽器を打ち鳴らす子どもたち。個性の優れる方面において各々やむなき表現をなしている現場は、まさに「Everyone is an Artist」の様相を呈していた。
パレードの時間
14時の少し前。外は曇天の雨模様だが、そんなことはおかまいなしに30名を超える人々がパレードに向けて集まっていた。おとまりの時間に参加していた子どもたち、城内農民芸術祭の出展作家や県内各地や県外からの来訪者、ご近所さんなど、なべての人々に開かれた場となっていた。玄関先では全身に赤い衣装をまとった池宮さんもスタンバイ。パレードの参列者も、それぞれに楽器を打ち鳴らしたり旗を掲げたり、杖をついたりスカーフをまとったり、それぞれに出発に向けた準備をして庭先へ。
14時ちょうど。池宮さんご持参のラジカセが大きな音楽を奏で始め、「鼓動のパレード」がスタート。まずは、旧菅原家の裏庭を通って土合丁旧大沼家侍住宅へ。土間に展示された村山さんの作品を前にパフォーマンス。子どもたちを中心に、鈴のついた長い棒を掲げながら土間をぐるぐるまわりつつ、緑画のえがく円弧をなぞる。まさに、身体全体を用いた鑑賞であった。
▲「鼓動のパレード」へ出発(左)土合丁旧大沼家侍住宅にて(中)土合丁旧大沼家侍住宅にて2(右)
土合丁の旧大沼家を出発したら、みんなで楽器を鳴らして小路をパレード。おとまりの時間から参加していた小学生男子2名が黄色い旗を振りながら先導役を務める。近所の皆さんには、予めパレードのルートや時間帯について事前にお知らせしていたため、玄関先で出迎えてくださる方も。
達小路を通って片平丁の旧大沼家侍住宅へ向かう一行。鬱蒼とした杉木立で日中でも薄暗い片平丁も、いつになく賑わいを見せていた。茅葺きの片平丁旧大沼家侍住宅に近づくと、家の中から重低音が響いてくる。ここでは座敷にあがってパレード続行。村山さんの作品を前に始まる謎の儀式。相変わらず子どもたちが大活躍であった。
▲坂道をのぼるパレードの隊列(左)片平丁を進む一行(中)片平丁旧大沼家侍住宅にて(右)
パレードのフィナーレは片平丁旧大沼家侍住宅から金ケ崎要害歴史館へと向かう空き地にて。ここには竹でアーチをつくった村山さんの野外作品も設置されていた。一面の雪景色になっていたが、一部雪かきをして通路を確保。池宮さんは鮮やかな長い布を引きずりながら雪の中を突き進む。その後ろから旗を持った子どもたちの隊列が続く。どことなく、虫追い祭りや鳥追い祭りのような年中行事を彷彿とさせる風景だ。最後は池宮さんのソロダンスで閉幕。真冬の昼の夢のような不思議な時間となった。
▲雪道を進む隊列(左)雪景の村山作品(中)村山作品をくぐって(右)
祭りの余韻
パレード閉幕後、旧菅原家(旧狩野家)侍住宅へ。新春準備祭の裏プログラムとして、ピニャータ開封の儀が始まった。ピニャータとは、お菓子などがつめられた紙製のくす玉のようなものであり、メキシコなどでお祝い事の際に用いられる。めでたくも今回たたきわるのは、今年のゴールデンウィークにメキシコからの留学生と一緒につくったものである。青い象の形をしたピニャータは、「城内農民芸術祭2025」の期間中、小さな作品展の一環でひっそり展示し続けていた。
作者のR君から順番にたたいてみるも、なかなかうまく壊れずに上部から少しずつお菓子が出てくるだけ。想定ではもっと壮大にはじめる予定だったらしい。ひとしきり体験したら、作品撤収も兼ねてあとはお菓子のおすそ分け。さらに、パレードに参加した子どもたちにはだがし引換券も贈呈したため、ちょっとした子ども版の打ち上げとなった。昨夜、おとまりの時間が始まった時には絶妙な距離感のあった男子小学生の二人組もすっかり打ち解け、一緒に「りぼん館」へと向かっていった。
さて大人チームはと言えば、18時に旧菅原家を閉めた後、展示会場にもなっている和洋食道エクリュさんの奥座敷にて打ち上げ。床の間に掲げられた城山さんの作品を鑑賞しながらしばし交流の時間となった。閉店後はそのまま作品の撤収も。こうして祭りの痕跡も少しずつ消えていき、祭りのあとの日常へと戻りつつある金ケ崎であった。
お問い合わせ先
旧菅原家(旧狩野家)侍住宅
〒029-4503 岩手県胆沢郡金ケ崎町西根表小路9-2
℡:080-7225-1926(担当:市川)






















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