· 

第七一回 金ケ崎芸術大学校 第二十九回 それぞれの時間をひらく

 

 

自分の時間を組み立てる

 

 金ケ崎芸術大学校では、それぞれの得意なことや興味のあることを持ち寄りながら「開校日」をひらいてきた。ここ数年は、月例で「図工の時間」を開催し、折り紙や書道などを行うことがルーティンとなりつつある。これに加えて、今年は久しぶりに「鬼の時間」を復活し、2月の節分に向けて「鬼のようなお面」をつくるワークショップは多くの子どもたちで賑わった。

 ちょうど「鬼の時間」を開催していた頃、昨年の「城内農民芸術祭」にも作品を出展していた小学6年生のハルタ君(昨年の「城内農民芸術祭の様子は金ケ崎芸術大学校 第二十七回 EVERYONE is an ARTIST)。から持ち込み企画の提案があった。ハルタ君が初めて大学校に訪れたのは2019年のこと。当時は小学校に入学する前だったが、大学生の企画するワークショップに参加していたことを思い出す。その後、2021年には「模型の時間」に最年少メンバーとして参加し、2023年の「小学生ウィーク」ではチラシの表紙原画も担当した。

 そんなハルタ君も小学校卒業ということで、今回は「開校日」を企画する側としての参加である。レゴブロックを使って組み立て式のロボットをつくるという企画だ。関節部に可動式のパーツをつけた基本形をアレンジしていく方法をプレゼンしてくれた。真剣にプラモデルを組み立てていた「模型の時間」での経験が生きているようで感慨深い。具体的に参加者の定員や対象学年の設定などについて話し合い、「ロボの時間」として開催することに決まった。

ブロックの山
ブロックの山

 

 

春の小学生ウィークエンド

 

 実施時期は春休みをご希望とのことで、夏休みの恒例行事「小学生ウィーク」をぎゅっと凝縮した特別版の開校日として設定することとした。ハルタ君の担当する「ロボの時間」を中心に、新年最初の草むしり大会やおなじみの「図工の時間」などから構成される二日間のプログラムとなる。

そして、この企画の広報のために歩き回っているさなか、地元の方から「先生と連絡を取りたがっている人がいますよ」との口コミが。話を聞けば、ハルタ君も参加していた2019年の開校日に企画者側で携わっていた当時の学生が町内でお仕事をされているとのこと。職場の方経由の伝言ゲームでつながっていった。

 無事に連絡がつき、「小学生ウィークエンド」にて久々の再会。そしてそのまま草むしり大会にもエントリー。雪解け後の庭に散らばる杉の葉などを拾い集めながら、思い出話にも花が咲く。ちなみに、2019年当時は「おやさいの時間」と題した開校日を企画し、フェルトを用いてお野菜のマスコットをつくるワークショップを開催していた。現在も手芸を続けているとのことで、新たな開校日の予感も芽生えていく。

 

 

ロボの時間

 

 一方で「ロボの時間」はと言えば、早々と定員を超える申込み。その多くは小学校の低学年で、やはり子どもたちにとって「ロボット」は魅力的なテーマのようだ。これとあわせて、近隣住民の皆様に家に眠るレゴブロックの寄付を呼び掛けてみたところ、いつもお世話になっている喫茶店「りぼん館」より大量のブロックをご提供いただいた。

 こうして迎えた本番。ハルタ君は早めに大学校に到着し、会場準備に取り組む。「よばれたい名前を名札に書いてください」という細かな配慮も。今回は、基本パーツ分を参加費として徴収し、講師持ち込み分については有償で、ご近所さんからご寄贈いただいたパーツについては無償で、それぞれ追加パーツを選んで自分だけのロボットをカスタマイズしていく。

ロボの時間の準備
ロボの時間の準備

 いよいよ「ロボの時間」のスタート。保護者もあわせると10名を超える大所帯でにぎわう会場。受付を済ませた参加者には基本パーツのセットとつくり方を書いたプリントが配布される。司会進行をサポートした方がいいかな……という心配もなんのその、タブレットに用意した台本をもとにしっかりと「先生」を務めていた。

「ロボの時間」進行中
「ロボの時間」進行中

ロボットの作例(変形前)
ロボットの作例(変形前)
ロボットの作例(変形後)
ロボットの作例(変形後)

 一通り説明を終えたら、無彩色のパーツと関節パーツを入れた基本セットを組み立てながら骨格をつくっていく。その後は自由にパーツを選んでカラフルなロボットへとパワーアップ。ちなみに、「りぼん館」ご提供のブロックは、もともと大きな帆船を組み立てるものだったため、煙突のような細長いパーツやハンドルのような円盤状のパーツなど形のバリエーションも豊富。それらを装置や武器に見立てながら自分だけのロボットをつくっていた。

パーツを選ぶ
パーツを選ぶ

ロボットの製作中1
ロボットの製作中1
ロボットの製作中2
ロボットの製作中2

 

 

 「こうやって攻撃するんだ」「ここがこうやって動くよ」など想像力を膨らませてそれぞれの性能を実演しながら語る子どもたち。初めてレゴブロックに触れる参加者も、しっかりとサポートしつつ無事に完成した。最後はそれらを縁側に並べて記念撮影。何とも平和な光景である。 いよいよ「ロボの時間」のスタート。保護者もあわせると10名を超える大所帯でにぎわう会場。受付を済ませた参加者には基本パーツのセットとつくり方を書いたプリントが配布される。司会進行をサポートした方がいいかな……という心配もなんのその、タブレットに用意した台本をもとにしっかりと「先生」を務めていた。

 ちなみに、この日はワカツキモケイの若月さんもオンラインで活動の様子を参観。「模型の時間」から「ロボの時間」へと、開校日の輪が広がっていく。今回の「開校日」は、小学生の発案による初の試みとなったが、金ケ崎芸術大学校では誰もが「先生」にチャレンジできる。

 

縁側に並ぶロボット
縁側に並ぶロボット
庭先で遊ぶロボット
庭先で遊ぶロボット

 

 

春の本まつり

 

 新年度を迎えて初めての開校日は、題して「春の本まつり」。金ケ崎芸術大学校では、設立当初よりその一室を文庫として整備することを目指しつつ、いろいろな本を集めてきた。妖怪専門誌の『怪』や宮沢賢治研究誌の『四次元』のバックナンバーなど、なかなかお目にかかれない貴重書も。

 これらの多用な蔵書の中には様々な経緯で入手したものがある。例えば、茨城県水戸市にあった「ぴょん太文庫」からはたくさんの漫画本を譲り受けた。また、大学校の近くに新たに誕生した酵素風呂の「糠之介」からも児童書や単行本などを数多くご寄贈いただいた。これらの本は、大学校に来れば誰でも自由に手に取って読むことができる。

 

ご寄贈いただいた本
ご寄贈いただいた本

 さらに、大学校の蔵書(と言いつつ筆者の蔵書)の一部を放出し、「こっそり古書市」も催すことにした。昨年の秋ごろから少しずつ本棚を増やしつつこっそり準備を続けてきた結果、大小あわせて約500冊のラインナップ。また、新たな本の出会いに向けてご近所さんにも家で眠っている蔵書の寄贈を呼び掛ける。「お父さんが本好きだったから床が抜けるほどあったけど、処分しちゃった」などなどよくある展開も。

 5月2日。「こっそり古書市」に向けて図書委員会の活動をしていると、とあるご近所さんがたくさんの蔵書をお持ち込みいただいた。『現代東欧文学全集』など興味深いタイトルがずらり。「せっかくですので、もしよろしければ大学校の蔵書の中でお好きなものがあれば……」ということで物々交換。こうして本を媒介としたコミュニケーションが成立するのも本まつりの醍醐味なのかもしれない。

こっそり古書市
こっそり古書市

 

 

こっそり古書市

 

 5月3日。こっそり古書市に先立って草むしり大会を開催。エントリーなしかと思われたが、小学生の兄弟がお父さんと一緒に自転車で到着。さっそく軍手をしてせっせと草をむしっていく。この季節はまだ草も伸び切っていないが、今のうちに根こそぎむしりとっておくことが重要だ。

 みんなで庭仕事に勤しんでいると、近所の和洋食道エクリュのお母さんが重そうな荷物を抱えて大学校へ。なんと手塚治虫の『火の鳥』の全巻セットである。言わずもがなの名作漫画。「ぜひみんなで閲覧したいと思います」と譲り受けた。さっそく、草むしり大会に参加していた小学生も玄関先で読書。本まつりらしい光景である。

 ちなみに、今回はこどもの日間近ということで、絵本フェアも開催していたのだが、肝心の「こっそり古書市」には子どもたちがほとんど訪れず……その代わりに、初めましての大人たちが続々と。少し偏った蔵書から、それぞれに思い思いの本を探してお求めいただいた。

みんなで草むしり
みんなで草むしり
玄関で読書
玄関で読書

 

 

ぬいの時間

 

 今回は、本にまつわるワークショップも同時開催。先日の「小学生ウィークエンド」で再会したSさんと、しばしば大学校に足を運んでいるKさんの共同企画による「ぬいの時間」は、二つ折りにした紙を縫って自分だけの本をつくるというものである。近頃、小学生の間ではシール交換がブームのようだが、こちらもスクラップブックのようにいろいろな使い方ができそうだ。

 本棚を眺めながら古書を発掘する人々のとなりで、カラーコピー用紙と色とりどりの糸を組み合わせて本をつくる参加者。ちなみに、ここで使っている糸は、昨年末の「おとまりの時間」にて小学生が部屋中に巡らせたものをほどきながら再利用している。複雑に絡み合った糸をみんなでほぐしつつ、ぬいつつ、ゆったりとした時間が流れる。

 Sさんにとっては、6年越しの開校日。参加者としてお越しいただいた地元の方も常日頃より手芸に取り組んでいるとのことで、手芸の時間の構想も広がる。大学生の頃と立場は変わっても、ふとした拍子に自分の時間を設けることができる場所として、変わらない部分を大事にしていければ何よりである。

本の見本
本の見本

ぬいの時間1
ぬいの時間1
ぬいの時間2
ぬいの時間2

 

 

クトゥルフの時間

 

クトゥルフTRPG同好会(仮)の様子
クトゥルフTRPG同好会(仮)の様子

 そしてもうひとつ、本まつりに合わせた特別プログラムとして「クトゥルフTRPG同好会(仮)」を初めて開催した。こちらの時間を担当するのはTさんである。2021年に開催された「模型の時間」に参加したことをきっかけに、ワカツキモケイの主催する活動に頻繁に参加してきた。

 実は、これまでも「クトゥルフに関する企画をやってみたいです」と相談されてはいたのだが、この分野に詳しいメンバーがいなかったこともあり、なかなか実現に向けて動き出すことができなかった。そもそもクトゥルフ神話とは、アメリカの小説家であるラヴクラフトのホラー小説を出発点としつつ、作者の死後も読者によって神話体系が構築され続けてきた。こうした文化現象は、妖怪につながるところもあり、筆者も興味を抱いてはいた。とは言え、第一歩を踏み出す機会もなく……

 今回は、本をテーマにした開校日ということで、満を持して「クトゥルフTRPG同好会(仮)」としてスタートを切った。TRPGとは、テーブルトーク・ロールプレイングゲームのことであり、進行役を務めるゲームマスターのもと、各参加者がキャラクターを演じながら物語を進めていく。

 Tさんにとっては初めてのゲームマスターということで、原案となるストーリーを考えつつ、参加者と一緒に世界観を具体化していくことを目指した。テーブルを囲み、シナリオを考えたり、「神話生物」と呼ばれるキャラクターを構想したり、参加者同士で話し合いながら物語が構築されていく。TRPG経験者のサポートもあり、無事に「開校日」を完遂。

 

 

 

自分の時間とはなんだろう

 

 今回は、小学生から大人まで、様々な立場の人々がそれぞれの時間を過ごす様子を紹介してきた。いずれも、その出発点にあるのは「こんなことができたらいいな」という小さな妄想である。そうした一人ひとりの思いを実現可能な形に落とし込み、「開校日」として実践してみる。

 金ケ崎芸術大学校では、こうした一人ひとりの実践の積み重ねからその輪郭が形づくられてきた。そして、誰かの時間を共有した人々が、「私だったらどのような時間を過ごすだろうか」とふと考えた時、また新たな「開校日」がうまれていくのかもしれない。

 

 

インフォメーション

 

おばけの時間+図工の時間

 

5月末には、関西を中心に妖怪に関する活動を実践する天羽孔明さんと濱田さちさんをお招きしての特別開校日を予定しています。いずれも参加無料ですので、どうぞお気軽にご参加ください。こっそり古書市も引き続き開催しています。

 

[スケジュール]

5月30日(土)

15時~17時 百怪一首大会

5月31日

11時~15時 折り紙同好会、書を楽しむ会、クトゥルフTRPG同好会(仮)

 


 

お問い合わせ先

旧菅原家(旧狩野家)侍住宅

〒029-4503 岩手県胆沢郡金ケ崎町西根表小路9-2

℡:080-7225-1926(担当:市川)

 

メール:[email protected]

 

図工のあるまち

そのほかのコンテンツはこちらから

 

第28回<金ケ崎芸術大学校>第30回