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第七二回 金ケ崎芸術大学校 第三十回 おばけの時間

 

 

妖怪のつむいだご縁

 

 今日、日本各地で妖怪をテーマにした企画が開催されている。岩手県の場合、柳田国男の『遠野物語』の舞台でもある遠野市が有名どころだが、実は金ケ崎でもこっそりと妖怪関連の企画が行われてきた。毎年夏に開催されている「幽霊・化け物・妖怪画展」がそれである。近年は規模が縮小しつつあるが、かつては地元の皆さんが自由に表現した幽霊や化け物や妖怪をモチーフにした作品を、重要伝統的建造物群保存地区の公開住宅の各所で展示していた。

 この展示の調査に赴いたことがきっかけとなり、筆者と金ケ崎の縁にもつながった。金ケ崎芸術大学校を立ち上げて以降も、「おばけの時間」や「鬼の時間」、「金ヶ崎要害鬼祭」など、妖怪をテーマにした企画を不定期で開催してきた(「金ヶ崎要害鬼祭」の様子:金ヶ崎要害鬼祭 金ヶ崎要害鬼祭2023。そして、2026年5月末、久しぶりに「おばけの時間」と銘打った開校日を実施することになった。夏本番には少し早いが、ここではその実現に至ったエピソードを記録しておきたい。

 

 

妖怪ネットワークの構築

 

 ここで舞台は金ケ崎町を離れて徳島県の三好市へ。ここも、筆者が断続的にフィールドワークに訪れてきた地域の一つである。水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』に登場する「こなきじじい」ゆかりの地として、2000年前後から妖怪をテーマにした地域づくりに取り組んできた。

 活動の拠点となっている道の駅大歩危には「妖怪屋敷」が併設され、地元の妖怪たちを地元住民が手作りした造形物が展示されている。その素朴な表現には、先に挙げた「幽霊・化け物・妖怪画展」とのつながりも感じられる。そもそも、民間伝承として語られてきた妖怪のほとんどは、プロの作家によってつくられたというよりも、民衆によって育まれてきた文化の一つである。

 この文化を次の世代に受け継いでいくために、道の駅大歩危でも様々な企画が試みられてきた。コロナ禍を経て2023年に始まった「四国妖怪フェスティバル」は、各地で妖怪をテーマにした活動を行っている団体が一堂に会する貴重な機会となっている。水木しげるゆかりの鳥取県境港市や柳田国男ゆかりの兵庫県福崎町など自治体主導で推進する地域もあれば、香川県の小豆島にある「妖怪美術館」など民間主導の取り組みもある。

 今回、金ケ崎芸術大学校の「おばけの時間」でもご協力いただく「沙界妖怪芸術祭」の皆さんに出会ったのも「四国妖怪フェスティバル」がきっかけであった。ちなみに、このプロジェクトは大阪の堺市に伝わる『沙界怪談実記』という書物に記された怪異を基軸としたものであり、妖怪アートフリマや妖怪屋台、妖怪行列などが展開される。

 

 

妖怪探訪in大歩危

 

 ちなみに、2026年は「四国妖怪フェスティバル」は開催されなかったのだが、それに代わって「大歩危妖怪探訪」なるプログラムが開催された。道の駅大歩危を発着点としつつ、多くの妖怪伝承が残る藤川谷沿いをそぞろ歩くというものである。筆者もガイド役を兼ねての参加となった。

 藤川谷沿いには、地元住民によってつくられた妖怪の木像や、全国からの寄付を募って建立された「児啼爺」の石像などがあり、妖怪街道の様相を呈している。とは言え、実際の伝承地はもっと上流部にあるため、なかなか現地まで訪れる機会は少ない。

今回は、河童に似た妖怪エンコが現れたとされる「ドロメキ淵」などを経て、蛇の形をした巨石が祀られる「金蛇大明神」に至るまで、片道7kmを超える道のりである。かつてフィールドワークを繰り返していた頃、野山を分け入り妖怪伝承地を尋ね歩いていたことを思い出す。

 なかなかにハードなプログラムであるため、参加者も玄人ぞろい。道中では、フィールドワークの苦労話をしたり、地域による河童の呼称の違いについて雑談したり、エコミュージアムについて語ったり……「沙界妖怪芸術祭」の皆さんとは翌週の「おばけの時間」に向けて妖怪談義を繰り広げたり。見えないものをそぞろみる濃密な時間であった。

トンネルをくぐって妖怪探訪
トンネルをくぐって妖怪探訪
エンコとの遭遇
エンコとの遭遇

▲妖怪探訪in大歩危(一番右が金蛇大明神)

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百怪一首in金ケ崎

 

 金ケ崎芸術大学校の開校日は「大歩危妖怪探訪」の1週間後。「沙界妖怪芸術祭」を主宰されている濱田さちさんと作家の天羽孔明さんのお二人は、関西からひと足早く東北へ。行き先はもちろん遠野である。その調査の道中で金ケ崎にもお立ち寄りいただくことになった。

 今回の「おばけの時間」のメインイベントは岩手県では初開催(!?)の「百怪一首」大会。これは、妖怪版の百人一首であり、天羽さんが数年がかりで完成させた逸品である。ちなみに、絵札は『最強王図鑑』シリーズなどで知られるなんばきびさんが担当されている。元ネタの和歌を踏襲しつつ、様々な妖怪に置き換えた作品には遊び心が溢れる。

 大学校のお座敷に赤い毛氈を敷いて「百怪一首」を並べるとそれらしい雰囲気に。カルタ大会ということで、子どもたちが参加するのではと思いきや、数寄者の大人たちが集っての真剣勝負となった。まずは「坊主めくり」に基づく「百怪めくり」からスタート。裏返した山札から一枚ずつ「読み札」をめくり、坊主妖怪を引いたら手札を捨て、姫妖怪を引いたらたまった捨て札を総取りするなどを繰り返し、最後に一番多くの手札を手にしているプレイヤーの勝利となる。

 次はカルタと同じように「散らし取り」で遊ぶ。下の句が書かれた取り札をバラバラに並べ、読み手が上の句を読み始めたら下の句を探して早い者勝ち。とは言え、まだ「百怪一首」を覚えているわけではないので、実際には下の句を読み始めてからの勝負となる。読み手を担当する天羽さんの絶妙な読み方でお手付きも連発。

熱戦が終わった後もしばし妖怪談義が続いた。ちなみに、天羽さんは古書マニアでもあるため、開校日にあわせて妖怪フェアを開催中のこっそり古書市にも貴重な妖怪本をご寄贈いただいた。

 

百怪一首熱戦中
百怪一首熱戦中

坊主めくりの様子
坊主めくりの様子
こっそり古書市(妖怪本特集)
こっそり古書市(妖怪本特集)

 

 

鬼のようなお面も

 

 翌日は毎月恒例の「図工の時間」を開催。この日のラインナップはおなじみの折り紙同好会や書を楽しむ会のほかに、先日の「春の本まつり」で立ち上がったクトゥルフTRPG同好会(仮)も加わった(クトゥルフTRPG同好会(仮)の様子:それぞれの時間をひらく)。

 早くからやってきた近所の小学生は、今年の冬に開催した「鬼の時間」にて型からつくった張り子のお面に絵の具で着色していた。「なまはげのような鬼にしたい」ということで、大学校の蔵書をめくりつつ鬼のイメージを探す。アクリル絵の具で全体を赤く塗ったら庭先の植え込みの上で乾燥。緑の庭に赤いお面が映える。その間に草むしり大会に参加しつつ、しっかりとだがし引換券もゲットしていた。

 五月晴れの陽光に照らされて十分に乾いたら、上から金色の絵の具を重ね塗りして鬼のようなお面の完成。「幽霊・化け物・妖怪画展」を出発点に広がった金ケ崎でのプロジェクト。その根底には、子どもも大人も誰もがつくり手となり得る仕組みが流れている。こうしてつくられたお面もまた、新たな文化へとつながっていくのかもしれない。

 

▲お面のできるまで

 

 

気まぐれ読書案内

 

妖怪狂歌カルタ・百怪一首

ご存じ「百人一首」を妖怪に置き換えたオリジナルのカルタです。古本マニアから石集めまでなんでもござれの作家、天羽孔明(@amo66b)さんの作にイラストレーターのなんばきび(@nanbakibi_tw)さんの素敵な作品を添えて。読んで楽しく、遊んで学べる作品となっています。新作も準備中とのことですので乞うご期待です。

https://www.instagram.com/yo_kaikaruta/

 

 

お問い合わせ先

旧菅原家(旧狩野家)侍住宅

〒029-4503 岩手県胆沢郡金ケ崎町西根表小路9-2

℡:080-7225-1926(担当:市川)

 

メール:[email protected]

 

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