· 

第二五回 パブリックアート探訪記 No.03 立川編(前編)

 

久しぶりの立川へ

 

PLAY! MUSEUM
PLAY! MUSEUM

 「図工のあるまち」では約2年ぶりとなるパブリックアート探訪記。ここでは、日本各地の町中で遭遇したアートについて、独断と偏見のもとにレポートしていく。今回の舞台は、まさにパブリックアートの聖地とも呼ぶべき東京都立川市。筆者にとっては、学生時代に訪れて以来、10年以上ぶりの途中下車であった。

 

 

 久々の訪問の目的は、2020年にオープンしたPLAY!MUSEUM。「絵とことば」をテーマとする新しい美術館である。絵本やマンガにフォーカスした特徴的な展覧会を企画しているのだが、今回は「コジコジ万博」開催中ということで、ワクワクしながらの初来館であった。 

「コジコジ万博」入口
「コジコジ万博」入口

空気で動く「物知りじいさん」
空気で動く「物知りじいさん」

 さくらももこによるマンガ作品「コジコジ」は、1994年から97年に『きみとぼく』に連載されていた。また、1997年から99年にかけては、原作をもとにテレビアニメ化されている。ここでは詳細に語ることは控えるが、ファンタジーとユーモアとギャグが融合したような世界観はどこか哲学的でもある。

 

 登場キャラクターの「ブヒブヒ」と「スージー」に言われるがまま入場料100万円を支払って中に入ると、そこにはコジコジたちの暮らす「メルヘンの国」が広がっていた。「万博」を名乗っていることもあり、一般的なマンガの原画展とは異なり、音あり映像ありディスコありチューブマン(?)ありのカオスな空間になっていた。


 

 

開発を続けるまち

 

GREEN SPRINGSのカスケード
GREEN SPRINGSのカスケード

 そもそも、このPLAY!MUSEUMは、かつて在日米軍基地の置かれていた立川飛行場の跡地再開発の一環として整備された「GREEN SPRINGS」の一画に建てられた複合文化施設である。滑走路をモチーフにしたという巨大なカスケードや水の流れるビオトープなど、開かれた広場となるように環境がデザインされている。


GREEN SPRINGSの地図
GREEN SPRINGSの地図

 敷地全体がX字にクロスする通路でつながっており、紙の専門店など個性的な店舗が並ぶ。随所に置かれた現在地を示すマップも石に刻まれた記号のようになっており、それ自体が一種のオブジェとして空間に溶け込んでいる。


中村哲也《上昇輝竜》
中村哲也《上昇輝竜》

 また、エリア内には複数のパブリックアートも設置されていた。立川駅から向かってエスカレーターで上がると中村哲也の《上昇輝竜》が見えてくる。文字通り上昇感を感じさせる造形性と合わせて、現在進行形で開発の進む地域性を孕んだ彫刻と言えようか。中村は、1990年代に立川にあった共同アトリエ「スタジオ食堂」のメンバーでもあり、時を超えて招待作家としての再来である。


Akari Uragami《NEHAN》
Akari Uragami《NEHAN》

 歩きながらふと視線を上に向けると、渡り廊下の一部がペイントされていることに気づく。これも作品なのだろうかと周囲にキャプションを探したものの見つからず。後ほど、Webサイトで確認したところ、Akari Uragamiによる《NEHAN》であることが判明した。分かりやすくキャプションを示して「これが作品です」と主張しない手法には、以下に述べる「ファーレ立川」とのつながりを感じさせる。


 

 

そして「ファーレ立川」へ

 

 「GREEN SPRINGS」から多摩モノレールをはさんで反対側に広がるのが「ファーレ立川」である。こちらも、米軍基地跡地の再開発事業として整備が進められ、1994年に完成した。一帯には、商業施設やオフィスビル、図書館等の建築群とともに、北川フラムのディレクションにより、100点を超える作品が設置された。

 

 まちを歩けば、現代を代表するアーティストによる作品にそこかしこで出会える。言わば、誰でも自由に鑑賞できる野外美術館だ。筆者も、大学で担当している授業においてこの事例を取り上げることがあるため、今回は最新の状況調査も兼ねて、作品を一巡することとした。

 


 そもそも、「ファーレ立川」のパブリックアートには3つのコンセプトが設定されている。第一に「世界を映す街」であり、出身地も様々なアーティストによる多様な作品に触れることができる。第二に「機能(ファンクション)を美術(フィクション)に」であり、車止めやベンチなどの都市機能の一部が遊び心たっぷりに作品に姿を変えている。第三に「驚きと発見の街」であり、鑑賞者はまさに街を探検するようにアート探訪を楽しむことができる。そのため、それぞれの作品にはあえてキャプションが設置されていない。

 

 前回訪れた際の記憶を辿りながらも、十年一昔ということで、まちの様子もだいぶ変化している。「たましん美術館」にて「ファーレ立川アートガイド」を手に入れて散策スタート。さっそくジャン=ピエール・レイノーの大きな赤い植木鉢が見えてきた。(後半に続く)

 


気まぐれ読書案内

 

吉崎元章、樋泉綾子、石井幸彦、水沢勉、清水裕子、畑山祐子(編)『「空間に生きる―日本のパブリックアート」展 カタログ』「空間に生きる―日本のパブリックアート」展開催実行委員会、2006年

 

2006年に札幌芸術の森美術館と世田谷美術館で開催された同名の展覧会のカタログとして発行されました。日本における戦後のパブリックアートの歴史について、丹下健三らによって設計された「広島平和記念公園」から2000年代の芸術祭に至るまで、その歴史が豊富な写真とともに掲載されています。この中で、「ファーレ立川」も首都圏再開発の事例として取り上げられています。

 

PLAY!:https://play2020.jp/

ファーレ立川:https://www.faretart.jp/

 No.02(前橋編 後編<パブリックアート探訪記>No.04