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第四一回 そぞろみ部 No.04 港町

 

そぞろみ部とは

 

 いろいろな場所をそぞろ歩きながら造形的な見方や考え方を使って身の回りのあれこれを眺めてみるまったり系部活動。しばらく部員が一人だけだったが、今回は「学び!と美術」「学び!と社会」との関連企画ということで、久しぶりのグループ活動。行き先は神奈川県横浜市。社会科の教科書の著者でもある笠谷先生と一緒に、秋風のさわやかな港町をそぞろみた。

 

水際のオブジェ

 

港町では円柱状の造形物をよく見かける。集合場所の馬車道から海に向かう道中でもさっそく発見。石造りのようだが、上部は壊れかけてところどころ錆もついている。ちょうど近くに屋形船も浮かんでおり、係船柱(ボラード)の一種かと思われる。果たしていつ頃からここにあるのだろう。すぐそばに架かる万国橋に昭和15(1940)年竣功と刻まれていたことから推察するに、それまではここが港の最前線だったのかもしれない。今は車止めに姿を変えて新しいポールと一緒に並ぶ。


もう少し海に近づくと素材も金属製へと変化していく。水面から首長竜が顔を出したようなものはさしずめネッシー型。大岡川沿いでも小さな船を係留できそうな逸品に遭遇した。なんとなく空を飛ぶカモメにも見えてくる。肝心の水辺との間にフェンスが立ちはだかる物件も。役目を終えたそれはあたかも抽象彫刻のように静かに佇んでいた。


 

 

水平線と平行線をぐるり

 

係船柱を辿れば海もすぐそこ。現在の港の最前線で見かけたのは直線的でスタイリッシュなボラードもどき。そこから海を臨めば、白を基調にした工場群が二色の青を上下に区切るダイナミックな構図が広がる。見上げれば巨大なハンマーヘッドクレーン。非日常的なサイズの人工物も港町のそぞろみポイント。岸壁では大きな白い立方体が波に揺れていた。オレンジ色の浮き輪も風景の中でいいアクセントになっている。まさに海と補色の関係。先ほど通ってきた円形の歩道橋(サークルウォーク)はこれをモチーフにしているのかもしれない。

(クリックすると画像が大きくなります)。

 

さらに歩みを進めると、かつての駅のホームが残されていた。説明版を見ると旧横浜港駅のプラットホームらしい。しばし海路から陸路へ貨物や人々が行き交う様子を想像してみる。今は人々の憩いの場になっているようだ。足元には地面に埋め込まれた平行線。どこまで続いているのだろうか。

埋め込まれた線路
埋め込まれた線路

 

 

時間の地層

 

線路の上を歩いていると、左手に遺跡のようなものが見えてきた。レンガがゆがんでいるところもあり、迷宮を彷彿とさせる。例のごとく説明版によれば、関東大震災によって焼失してしまった旧税関事務所遺構とのこと。これを更地に戻すことなく、花壇として利用しようという発想もなかなかだ。赤レンガ倉庫のすぐそばという一等地にもかかわらず、このゆとりのある空間の使い方。海に面していると、土地が足りなくなったらまちを拡張できるため、あえて古いものを壊さなくてもいいのかもしれない、と妙に納得してしまった。

遺跡のような花壇
遺跡のような花壇

そのような目線で歩いてきた道のりをふりかえると、過去と現在が入り混じりながら、海に向かって時代が新しくなっていることに気付く。その様相はあたかも地層のようでもあった。さてはこの足元にあるレンガの円柱も何かいわれがあるのでは……埋め込まれた時間を解きほぐしていくのも港町の楽しみ方の一つである。


(編集部)

今回ご一緒頂いた社会科の笠谷先生目線からのレポートは

学び!と社会<Vol.19>https://www.nichibun-g.co.jp/data/web-magazine/manabito/shakai/shakai019にてご覧いただけます。

 

また、お二人のそぞろみの様子を編集部目線で切り取った学び!と美術<Vol.136>https://www.nichibun-g.co.jp/data/web-magazine/manabito/art/art136/

もぜひご覧ください!

 

図画工作科と社会科の見方考え方の違いや、共通点をお楽しみください。こちらで紹介しきれなかったものや場所などもご覧いただけます。

 

 

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