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第十四回 妖怪採集 其の一 仙台編

 

 

妖怪採集とは

 

 

 皆さんは「妖怪」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。日本には、全国各地にそれぞれの地域ならではの妖怪が伝えられている。その多くは、身のまわりで起こる不思議なできごと(妖怪現象)に、言葉や形を与えることで生み出されてきた。しかも、それらは往々にして特定の場所と結びつけて語られる。例えば、「あの川には河童がいる」「あの杉の木には天狗が住んでいる」といった具合に。

 

 筆者はこうした妖怪を研究対象としているわけだが、するとしばしば「妖怪っているんですか?」と尋ねられる。これはなかなかに答えにくい質問だ。そんな時は「文化としては存在しています」とはぐらかすことも多い。試みに、ある共同体が周囲の環境を解釈する中で何となく共有されてきた物語として妖怪を捉えてみることにする。この文脈において、妖怪は「いる」というよりも「つくられた」存在である。

 

「図工のあるまち」というタイトルに寄せるならば、身近な地域を観察し、そこからイメージを膨らませた共同制作物とでも言えよう。筆者は、妖怪がつくられるプロセスを追体験するために、10年程前から「妖怪採集」に取り組んできた。これは、まちを歩いて妖怪がいそうな場所を探し出し、そこにいるであろう妖怪を想像するワークショップである。ここではその活動報告を記していく。

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妖怪採集帖
みなさんもぜひ妖怪採集帖をDLして妖怪採集にでかけてください。
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 今回の舞台について

 

 2021年の夏は東北各地で妖怪ものの企画が目白押しだった。福島県立博物館では「あはひのクニ あやかしのクニ~ふくしま・東北の妖怪・幽霊・怪異~」[i] 山寺芭蕉記念館では「妖怪・もののけ物語―鬼退治伝説から幸福をよぶ霊獣まで―」[ii] そして仙台文学館では「みちのく妖怪ツアー」展[iii] がそれぞれ開催されていた。今回のレポートは、仙台の展覧会の関連企画として実施した活動に基づくものである。会場は仙台市若林区の荒町。奥州街道沿いに並ぶ昔ながらの商店街は、江戸時代には麹の町として栄えたらしい。

 

 妖怪採集のワークショップでは、「不思議な場所や気になる場所を探してみる」「昔のまちの様子を想像してみる」「まちの人の話を聞いてみる」という3つのポイントを示すことにしている。

 

 無論、妖怪採集は歴史散策ではないので、まちの歴史の事実をトレースすることに重きを置いているわけではない。かと言って、地域に関する知識を持つことを妨げるものでもない。伝聞から思い描く想像上の世界(過去)と目の前で観察可能なもの(現在)とを重ねながら、自分なりの物語をつくりあげていくことに主眼がある。今回も、荒町市民センターで地元の方のお話を聞いてからまち歩きに出発した。

 

 

 

採集された妖怪たち

 

 当日の参加者は小学生4名、中学生1名、一般3名の計8名。さらに『みちのく妖怪ツアー』の作者のお一人でもある野泉マヤ先生にもご同行いただいた。幅広い世代と一緒にまちに繰り出せるのも妖怪採集の魅力の一つである。

 

 道中では、事前のお話で「飛び曼荼羅」の伝説が紹介された佛眼寺に接する公園や江戸時代から続く森民酒造など、地域の記憶を辿りながらの散策となった。また、このエリアは広瀬川の河岸段丘にもなっており、商店街の横道に入ると坂道がある。「このような高低差も妖怪採集のポイントですね」などと話しながら、イメージを膨らませていく。

 

 「この石は人の顔に見えるね」「この小さな穴はなんだろう」「この木はフェンスを飲み込みそうだ」「大きな樽を叩くと中から何かの音が聞こえる」などなど。まちの中から妖怪の痕跡を探し出していく。約1時間のまち歩きを終えたら、再び市民センターに戻って「妖怪採集帖」に記入する。

 

 さて、どんな妖怪が採集されたのだろうか。ここではその一部を紹介しておきたい。

 

種魔(しゅま) 

夜に墓地の付近にあらわれる。大きさは2.5㎝くらい。かまのような頭を使って地面にトンネルを作り、死人の骨をむさぼり食うという。頭は種のようなものでできているのだが、足は何でできているのだろうか。


さけのひびき 

お酒を発酵させる樽にあらわれるとされる妖怪。5歳くらいの子どもの姿をしており、3時9分に現れる。そこにいることに気づかずにたたくと足から異世界へ連れていかれて血と骨だけを樽に入れられてしまう。


捨海坊(すてうみぼう) 

全国各地の浜辺や大通りに現れる。主にプラスチック製品やマイクロプラスチックでできており、焼却炉やリサイクル場へ大きくなりながらはって進むという。仙台市荒町の公園で目撃された。


 

 いずれも、まち歩きの過程で観察された要素を出発点とした妖怪である。小学5年生が考えた「種魔」は公園の地面で見つけた小さな穴からイメージを膨らませている。小学4年生の参加者は、森民酒造に置かれた大きな樽を叩いた時に中から不思議な音が聞こえたらしい。「さけのひびき」という名前もどこかの民話を彷彿とさせる。「捨海坊」をつくりだしたのは中学1年生の参加者。環境問題にもつながるような物語となっている。

 

 妖怪というフィルターを通すことによってまちの見方も変わってくる。次はあなたのまちに出没するかもしれない。

 

気まぐれ読書案内

佐々木ひとみ、野泉マヤ、堀米薫『みちのく妖怪ツアー 古民家ステイ編』新日本出版社、2019年

東北在住の3名の児童文学作家による合作『みちのく妖怪ツアー』の1冊。東北の里山テーマパークの古民家エリアに宿泊体験に訪れた子どもたち。東北六県のそれぞれの名前がついた家に宿泊中、それぞれの地域に伝わる妖怪たちが現れて・・・・・・。岩手の河童などのメジャーどころから青森の灰坊主(あくぼうず)などのマイナー妖怪まで、児童書ですが大人でも楽しめるシリーズです。親子でどうぞ。

 

 

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