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Phase020:SDGs×地域×探求 =?② 意味や価値をつくりだす図工

こちらの記事でご紹介したプロジェクトの淑徳大学のみなさんが、先日科学館に、SDGsについてのインタビューをしに来てくれました。

表現学科の杉原ゼミのみなさんは区内各所をめぐり、SDGsについて調査したことをnoteにまとめ、公開されています。

今回のインタビューも、その様子をこちらのnoteにまとめてくれました。

どんな質問をされるのかドキドキでしたが、冒頭、「平和や平等」についての質問からスタートしたことがまったく新鮮で、私自身があらためてSDGsや創造性について整理して考えるきっかけになったので、こちらに書き留めておきたいと思います。

 

 

画像①インタビューのようす(note記事より)
画像①インタビューのようす(note記事より)

 

 

SDGsと創造性

 

さて、日本ユニセフ協会のSDGs CLUBページには、女優のエマ・ワトソンさんがSDGsについてわかりやすく紹介する動画が添付されています。

(動画はこちら

 

冒頭でエマさんはこの動画を、「あなたのクリエイティビティとパワーをどうやって活かせるか紹介します」と紹介しています。

動画の中では、とてつもなく大きな問題と捉えられるSDGsも、身近なところから課題を見出し、発明(イノベーション)/工夫(クリエイティブ)/キャンペーン(協働)という私たちでもできる3つの手法(「クリエイティブなスーパーパワー」)を使って取り組むことが大切だ、としています。

例えばイスタンブールのエリスさんはバナナの皮をつかって、大気汚染という課題を解決した事例が紹介されています。

これをみて私は、「そもそもエリスさんはなぜバナナの皮に着目することができたのか」ということが気になりました。

 

 

図工の「造形的な見方・考え方」

 

ところで、平成28年12月21日に示された「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)(中教審第197号)別紙」の中では、図工・美術の領域である「造形的な見方・考え方」について

 

感性や想像力を働かせ、対象や事象を、造形的な視点で捉え、自分としての意味や価値をつくりだすこと。

 

と書かれています。

とくに、“意味や価値をつくりだす”という言葉は、他教科のほとんどに書かれている“〇〇と関連づけること”とは大きく視座が異なるように思います。

つまり、前出の動画のように、課題を発見し画期的なアイディアをもって解決するイノベーション実現のためには、この図工・美術による学びを働かせることが大きく関係していると言えます。そしてこの中でも重要なのは「感性や想像力を働かせ」というところだと思います。

例えば動画の、バナナの皮からバイオプラスチックをつくり出した例。

このことは、バナナについて単純に「黄色い」「曲がった棒」とみているだけ(つまり「造形的な視点」だけ)では思いつくことができないアイディアです。

いつもみんなが食べているごく身近な存在としてのバナナのことを「感性や想像力を働かせながらみる(=接する)」ことがとても大切です。

 

 

感性・想像力はどこからくるのか

 

小学校学習指導要領(平成29年告示)【図画工作編】において「感性」は右のように示されています。

 

 

 

 

様々な対象や事象を心に感じ取る働きであるとともに、知性と一体化して 創造性を育む(p.11)

学習の場、材料や用具、さらには人、時間、情報などといった児童を取り巻く環境の全てが、感性を育んでいる(p.15)

▲小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 図画工作編p.11 p.15


また、中学校学習指導要領(平成29年告示)【美術編】においては、右のような記述があります。

 

 

 

 

変化の激しい現代社会での生活においては、どのような未来を創っていくのか、どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかということを創造的に考え、心豊かにたくましく生きていく観点からも感性の育成の重要性が認められる。(p.19)

▲中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 美術編p.19


想像力については【図画工作編】の中にこのような一文があります。

全ての学年の学習活動において、児童が思いを膨らませたり想像の世界を楽しんだりすることが重要であることから、感性とともに示している。(p.11)

▲小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 図画工作編p.11 


 

つまり、社会をよりよいものにしていくのかを創造的に考えるには、感性が重要であり、感性が豊かになるには、子どもが様々なものに触れることが大切なのです。同様に想像力も重要で、それを豊かにするには「こうなったらいいな」という世界を思い描くことを周りの人が認めてあげる経験が重要なのではないでしょうか。

 

今回例にとった、バナナをバイオプラスチック化するアイディアには、「バイオプラスチックというものがある」という事実や「バナナの皮が大量に処分されている」という事実を掛け合わせる発想が重要です。

このためには、さまざまな身の回りのことを知っていることが必要です。しかしそれだけでは不十分で、それらを関連づけて、発想を飛躍させるには、感性や想像力が大変重要な鍵を握っています。それらがあって、はじめて「意味や価値をつくりだす」ことができるのだと思います。

 

 

 

板橋区立教育科学館では、淑徳大学、板橋区の協力を得ながら、子どもたちを取り巻く環境をより豊かなものにすることで感性を育み、子どもの想像力を認めてあげることでより豊かにしていき、意味や価値をつくりだす喜びを感じてもらえるようにしたいと思っています。

それがおそらくSDGsの達成にも大きく寄与するのだろうし、その先の未来をつくっていくことにつながるのではないかと考えています。

 

 

板橋区立教育科学館の取り組みはこちらからご覧ください。

https://www.itbs-sem.jp/

 

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Author:清水輝大(しみずてるひろ)
1983年、北海道生まれ。
板橋区立教育科学館館長、ラーニングデザインファームUSOMUSO代表、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所教育共創ラボ研究員。
青森県立美術館、はこだてみらい館、八戸ポータルミュージアムはっち、ソニー・グローバルエデュケーションなどを経て、現職。
図工美術教育の手法を援用し、創造的なSTEAM教育、プログラミング教育、探究学習などの実践研究を行う。