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第三七回 放課後の学校クラブ 第15回 夏休みの準備

 

 

夏休みを取り戻せ!

 

 ここ数年、夏になると決まって新型コロナウイルスの感染拡大の波が襲来し、思い通りの夏休みを過ごせずに悔しい思いをした方も少なくないだろう。現在もウイルスが消滅したわけではないが、世間の風潮としてはようやくかつての賑わいが戻りつつある。

 

 

 

 そこで、満を持して数年来あたためていた一つのプロジェクトを実行に移すことにした。以前(と言ってももう10年近く前のことになるが)、「旅する学校」という妄想プランが立ち上がったことがある。電車や船などで移動しながら旅回りの「学校」をひらくというワクワクする企画案であった。当時は実現に移すことはできなかったが、何となく頭の片隅に残り続けていた。

 今年は6年生部員が5名と大所帯ということもあり、「放課後の学校クラブの修学旅行」と銘打って旅に出るための計画を練った。行き先は、東京でも京都でも大阪でもなく、岩手県である。「図工のあるまち」ではおなじみの「金ケ崎芸術大学校」滞在しながら、いつもとは違う環境でいろいろな活動に取り組む予定だ。

 

 

反応はいかに!?

 

 今回は、保護者同伴ではなく、子どもたちだけでの参加となる。宿泊学習などの体験はあるものの、果たして「もうひとつの修学旅行」に参加する意思はあるだろうか。さらに言えば、保護者の同意が得られるだろうか。誰かの保護者でもなく、学校の先生でもない、第三の立場の大人が児童を引率するためには、お互いにそれなりの信頼関係がないと成り立たない。

 新年度が始まった頃、「夏休みに放課後の学校クラブのメンバーで岩手に修学旅行をしようと思っているのですが……」と提案したところ、「ぜひやってください」との前向きな返事をいただいた。子どもたちの反応も上々。ということで、さっそく実現に向けた準備に着手する。

 並行して金ケ崎芸術大学校の夏の恒例企画である「小学生ウィーク」の企画を進めていたため、そこに「もうひとつの学校をつくろう」というプログラムも組み込んだ。各家庭の事情等を踏まえ、8月7日から9日にかけての2泊3日で日取りも決定。筆者が水戸から子どもたちを引率する都合上、ここから逆算して今年の「小学生ウィーク」のスケジュールも固まった。

 

 

秘密のミッション

 

 今回の「修学旅行」の企画にあたっては、金ケ崎芸術大学校の広報物を手掛けてきたグラフィックデザイナーの石井一十三さんにもご協力を仰いだ。普段は水戸芸術館現代美術センターのインハウス・デザイナーとして活躍されていらっしゃり、「放課後の学校クラブ」にも何度か足をお運びいただいたことがあるよき理解者でもある。

 昨年に引き続き、今年も「小学生ウィーク」のチラシについていろいろと相談していたのだが、打ち合わせを重ねる中で水戸の小学生と金ケ崎とをつなぐ仕掛けを組み込むアイディアが示された。具体的には、「放課後の学校クラブ」の部員がかいたイメージをデザインの素材として用いることにより、子どもたちが現地に訪れる必然性を高めるというものである。

 おおよその方向性が定まったため、6月の活動日には石井さんにも参加していただき、子どもたちに数字や文字などをかいてもらおう、と思っていたのだが……そのような日に限ってなぜか6年生部員が一人も参加せず。ひとまず、2年生部員にお試しでお手本をかいてもらうことになった。

 

 

 

 

 

 

 その翌日、昼休みの学校に出向いてこっそりミッションを伝えようとしたところ、校長先生の画策により、まさかの校内放送で呼び出し。「日曜日にコミュニティルームで活動している放課後の学校クラブに参加している6年生は至急会議室に来てください」ということで、招集がかかった。

 給食の片づけを終えて、ひとりずつ集まってくる部員たち。いつもの学校で突如として始まった「放課後の学校クラブ」にちょっとした非日常感を覚えつつ、秘密のミッションを提示する。午後の授業に遅れないようほんの10分間ほどの活動ではあったが、意図はうまく伝わっただろうか。

 

 

チラシの完成

 

 約1週間後。とある部員の保護者より、筆者のもとに子どもたちの成果物が届いた。動物などをモチーフにした数字や夏っぽいイラストの添えられた文字、あるいは忠実に言葉をかきうつしたものなど、それぞれの解釈のもとにミッションに取り組んでいる様子が見られた。ちょっとデザインするのが大変かも……と思いつつ、スキャンしたデータを石井さんに送信。

 さらに、今回のチラシでは、現地の小学生にも表紙づくりへの協力を依頼することにした。白羽の矢が立ったのは、低学年の頃から金ケ崎芸術大学校でプラモデルなどを製作してきた4年生の児童である。お題は夏休みに向けたワクワク感を伝える絵日記。庭先で育てているメロンを見守るカエルが盛夏に向かう梅雨の季節感を醸し出す力作が仕上がった。

 

 それぞれの場所で着々と進む夏休みの準備。水戸の子どもたちが金ケ崎の地でどのようなできごとに巻き込まれるか、「旅する学校」の実現が今から楽しみである。

▼完成したチラシ


インフォメーション

小学生ウィーク2023

期間 2023年8月8日(火)~13日(日)

 

会場 金ケ崎芸術大学校

 

・もうひとつの学校をつくろう

 日時 8月8日(火)10時30分~12時30分

 担当 放課後の学校クラブ6年生部員

 参加費 無料(予約不要)

 

・版画でポスターをつくろう

 日時 8月8日(火)14時30分~17時30分 版をつくる

    8月9日(水)10時~13時 紙に刷る

 担当 城山萌々(版画家)、石井一十三(グラフィックデザイナー)

 参加費 500円(要予約)

・ねぶたの技法でうちわをつくろう

 日時 8月11日(金・祝)14時~17時

 担当 太田空良(ねぶた作家)

 参加費 500円(要予約)

 

・自然の素材で大地に絵を描こう

 日時 8月13日(日)10時~12時

 担当 村山修二郎(美術家)

 参加費 100円(予約不要)

 


 

 

いずれのプログラムも、居住地域にかかわらずご参加いただけます。ご参加を希望される方は、以下のお問い合わせ先までご一報ください。

 

お問い合わせ先

金ケ崎芸術大学校

〒029-4503 岩手県胆沢郡金ケ崎町西根表小路9-2

電話:080-7225-1926(担当:市川)

メール:kanegasakiartcollege@gmail.com

 

 

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