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第八回 金ヶ崎芸術大学校 金ヶ崎要害鬼祭

 鬼のいる暮らし

 

  今年の金ケ崎は地元の人もびっくりするほどの大雪だった。一面に広がる白い世界。眺めているだけなら美しいが、いざその環境に身を置くと否応なく現実と向き合わされる。このような厳しい季節の中、1月30日から31日にかけて、新たな年中行事として「金ヶ崎要害鬼祭」を企画した。昨今の空前の鬼ブームに少しだけ便乗しつつ、鬼文化を多角的な視点から楽しむ小さなお祭りである。

 

 そもそも、岩手という地名は鬼が岩に手形を押したことが由来となっているともされる。最近では、一関市にあった「鬼死骸村」が一部界隈で話題になった。金ケ崎町内にも、川に橋を架けようとする大工と鬼とのやり取りを描いた民話「大工と鬼六」が伝えられる。眼下を流れる北上川の風景と重ねると読みも深まる。このように、岩手では生活の様々な場面に鬼が息づいているようだ。

 

雪の芸術大学校
雪の芸術大学校

鬼のようなお面

 

 もちろん、岩手に限らず節分シーズンになれば町中に鬼のイメージがあふれかえる。スーパーマーケットの豆売り場には、赤い顔をしたおなじみのお面が並ぶ。とは言え、歴史をずっと紐解けば、「鬼」とはもともと目には見えない存在であった。この得体の知れない何者かに対応するために、人々は想像力を働かせて恐ろしい姿を生み出してきた。秋田の「ナマハゲ」をはじめ、各地で行われる民俗行事に登場する鬼のような来訪神もそうした祈りや畏れのあらわれである。

 

 岩手県の沿岸部にも「スネカ」と呼ばれるなかなかに恐ろしい行事がある。獣のような仮面を被り、衣装につけたアワビの貝殻は歩く度にガラガラと音を鳴らす。これもまた鬼のような存在である。金ケ崎芸術大学校では、多様な鬼をつくりだすために、数年前から「鬼の時間」を開催してきた。これは、張り子の技法で制作したお面に色を塗ったり素材を貼ったりしながら、オリジナルのお面をつくるワークショップである。

 

 

 ベースとなるお面は、いわゆる鬼のような形をしたものだけではない。長い角を生やしたものや動物のような形をしたもの、アシンメトリーで何とも形容しがたいものなど様々である。これらの形から自由に想像力を膨らませて鬼を造形していく。今年は、素材として和紙、毛糸、スパンコール、鳥の羽根などを用意した。この日のために集めた貝殻や金のボタンを持参する参加者も。長い角に毛糸を巻いたり、花柄の模様をたくさんの目に見立てたり、思い思いの鬼たちが仕上がっていく。


 

鬼を演じる

 

 金ヶ崎要害鬼祭では、この他にも様々な鬼企画が目白押し。語り部による鬼の昔ばなしに耳を傾けたり、鬼に関する研究会を開いたり、鬼の手芸品や秘蔵の鬼グッズを販売したり。中には菅原道真公の怨霊が登場する《北野天神縁起絵巻》の一場面を模した射的ゲームもあった。

 

そのような中、お祭りのフィナーレを飾ったのは郷土芸能の「鬼剣舞」である。「鬼」と名前はついているものの、演じているのは仏様の化身。そのようなわけで鬼のようなお面にも角は生えていない。今回は、芸術大学校の裏の畑をはさんでお隣りにある茅葺の「旧大沼家侍住宅」の土間での奉納となった。子どもたちが扇を持って舞う演目から始まり、続いて赤と白のお面をつけた舞手が剣を持って立ち回る。最後に緑の面をつけた演者が何本もの刀を持ってアクロバティックな動きを見せる。かつては真剣を使っていたという鬼のような噂も耳にした。

 

このように、「金ヶ崎要害鬼祭」では、鬼のイメージを固定化することなく、それぞれの視点から楽しみ、味わう機会となることを目指した。テレビやマンガなどで鬼の文字を目にする機会が多い今だからこそ、その文化の奥深さに目を向けてみてはいかがだろうか。

 

鬼の射的ゲーム
鬼の射的ゲーム

鬼剣舞①
鬼剣舞①
鬼剣舞②
鬼剣舞②

 

 

 気まぐれ読書案内

 

シャルル・フレジェ『YOKAI NO SHIMA』青幻社、2016年

 

 

フランスの写真家が日本各地の郷土芸能やお祭りに登場する異形のものたちを「ポートレート」として捉えた写真集。神様のような、鬼のような、妖怪のような存在は、人々の豊かな想像力の権化とも言えるでしょう。それらを「YOKAI」として解釈する視点にも大いに共感できます。もちろん、今回の記事で取り上げた「ナマハゲ」や「スネカ」も登場します。

 

 

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