プロジェクトの経緯
新型コロナウイルスの感染拡大も少しずつ落ち着きつつある状況を踏まえ、金ケ崎芸術大学校も少し遅れて新年度の事業がスタートする。今年度は「盆栽」を軸にしたプロジェクトを展開する予定だ。
これまでも、宮沢賢治の「農民芸術」をベースとした実践に取り組んできたのだが、ここにきて盆栽に取り組むきっかけとなったのは、筆者の研究室に所属する学生が小学生来の盆栽愛好家であったことによる。盆栽に少なからぬ興味はあったものの、これまで取り組む機会もなく、何から始めればよいのかもよく分からなかった。
いろいろと話を聞いてみると、改めて文化としての盆栽の奥深さを認識した。特に、自然物(樹木)に手を加えることで理想の形を追究するプロセスには、生け垣や庭園にも通じるものを感じた。そこで、金ケ崎芸術大学校での新しいプロジェクトの実現に向けて、昨年の秋に裏の畑に何本かの素材木(真柏)を植えてもらっていた。
芸術としての盆栽
そもそも盆栽はどのようにつくられるのだろうか。いわゆる鉢植えとは何が違うのだろうか。基本的な疑問は尽きないが、どうやら盆栽が盆栽であるためには、いくつかの条件があるらしい。
その中でも、筆者が特に興味を持ったのが、自然の樹木の壮大さを小さな木で表現しようとするコンセプトであった。そのためには、ただ奇抜な形をつくればよいのではなく、全体の構成を意識しながら手入れをしなければならない。まさに造形的な見方・考え方だ。ここには日本に数多あるミニチュア文化の神髄も垣間見える。
あわせて、それらが多くの愛好家によって支えられている点も特徴的である。ここで鶴見俊輔の『限界芸術論』を紐解けば、盆栽も生花や茶の湯と並んで「限界芸術」の一例として挙げられている [i]。もとより、盆栽が形になるまでには植物の成長を気長に待たねばならず、必然的に人々の生活と共存せざるを得ない趣味と言える。
「新しき盆栽村」に向けて
このような特性は、生活の芸術化を試みる金ケ崎芸術大学校の取り組みとしての相性がよい。盆栽に使われる素材木は、かつては「山採り」によって採取されていたが、今後は大学校の庭園にある多種多様な樹木を「庭採り」することで新たな素材を育てていく可能性も開かれている。
金ケ崎の重要伝統的建造物群保存地区は「緑の要害」を謳っていることもあり、そこから勝手に一家に一鉢を目指した「新しき盆栽村」の構想が立ち上がった。さらに、大学校で取り組まれる「生活者工房」[ii]による陶芸や漆芸と連動し、盆栽鉢や盆栽棚まで自ら設える計画だ。最終的には、地場産の素材から生まれた盆栽展の開催も見据えている。
小さな一本の素材木から始まる数年がかりのプロジェクト。まずは大学校を拠点にその第一歩を踏み出す。機が熟すまで、焦らずに行く末を見守っていきたい。
気まぐれ読書案内
鶴見俊輔『限界芸術論』勁草書房、1967年
芸術を「純粋芸術(Pure Art)」「大衆芸術(Popular Art)」「限界芸術(Marginal Art)」に分類することで、従来は芸術と見なされてこなかった様々な事物(例えば、盆踊りやこけし人形やおしんこ細工など)を考察する枠組みが構築されています。もはや古典とも呼ぶべき一冊です。この中で、「限界芸術」は「非専門的芸術家によってつくられ、非専門的享受者によって享受される」ものとして定義されています。初版本はなかなか入手しにくいですが、文庫本も出版されています。
今年度の事業案内
〇陶芸の時間「土と暮らせば」
金ケ崎で採取した土を使ってお茶碗や鉢をつくります。
日時:6/24、7/15、8/12、9/9
各日10:00~16:00
参加費:5,000円(全4回、器2つ分)
定員:10名
〇盆栽の時間「どこまでうつくし」
素材木の手入れを通して盆栽づくりを体験します。
日時:6/25、8/13、9/10
各日10:00~12:00
受講料:3,000円(全3回、素材木・鉢代込み)
定員:10名
〇漆の時間「漆にかぶれる会」
金継ぎを体験しながら割れた器をつなぎます。
日時:6/25、7/23、8/13、9/10
各日14:00~17:00
受講料:5,000円(全4回、材料費込み)
定員:10名
〇図工の時間
金ケ崎芸術大学校をまちの図工室として開放します(出入り自由)。今年は、折り紙同好会や食玩同好会も立ち上がります。
日時:6/26、7/17、8/14、9/18、10/30、11/27
各日10:00~15:00
[i] 今日では、生花(華道)や茶の湯(茶道)は、むしろ専門家によって提供され、専門的享受者をもつ「純粋芸術」に近いようなきらいもあるが、ここでは鶴見の分類に従う。
[ii] 日々の暮らしの中で生活者が生産者になる場をつくりだすことを目指したアートプロジェクト。漆芸を専門とする庄司知生を中心に展開される。
コメントをお書きください