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第四十回 金ケ崎芸術大学校 第十六回 マイ・スヰートホーム・ストーリー

 

 

シルバー・ワークショップ

 

 夏休みの「小学生ウィーク」から一息ついた9月中旬。シルバーウィークと呼ぶには程遠い飛び石連休だったが、そんな最中に60歳以上の参加者を対象としたワークショップを開催した。これまで、金ケ崎芸術大学校ではあえて年齢を区切った活動は行ってこなかったため、初の試みとなる。

 

 講師を務めた占部史人さんは、道で拾ったもの(いわゆるファウンドオブジェクト)などを用いて平面立体を問わず作品をつくるアーティストである。実は、2012年にも水戸芸術館現代美術センターの企画のもと「時間旅行―ブリキの車にのって」と銘打ったシニア向けワークショップを開催している。当時、筆者は同センターの教育プログラム「高校生ウィーク」に関わっていたこともあり、間接的にその成果物を目にしていた。

 

 その後、2021年に福井県あわら市にある金津創作の森美術館で占部さんの個展「ガンジス河の砂の粒ほどの孤独」が開催された際には、図録に文章を寄稿する機会もあった。そのようなご縁もあり、今年の秋に開催される「城内農民芸術祭2023」への参加を依頼したことから今回のワークショップが実現した。

 

 

参加者をサポートする占部さん
参加者をサポートする占部さん

 家に対する想い

 

 度々触れてきたように、金ケ崎芸術大学校が拠点とするエリアは、江戸時代の要害の町割りを今に残していることから国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。屋敷林(エグネ)と生け垣に囲まれた侍住宅が何軒も並び、江戸時代からこの地に暮らしてきたお家も少なくない。

 

 このような「伝統的」な地域で活動を続けていると、それぞれの「家」に対する想いに触れることがある。「ここは格式の高い武家の町だから」「われわれは侍なのであって農民ではない」などなど。このようなシビックプライドのようなものは、共同体の紐帯を強める一方で、時に排他的な言動として表出することがある。特に、コロナ禍によって封建的な地域社会の内包する負の側面があらわにされた。ただし、こうした反応は家を守るためには必然ともいえる。

 

 ようやく未知のウイルスに対する漠然とした社会的な不安が薄らいできたこともあり、少しずつ金ケ崎芸術大学校の活動範囲も拡張しつつある。そこで、改めて「家の記憶」に着目することで、このまちの出発点に立ち返ることを目指した。今回のワークショップはその中核をなす企画となる。

 

 

家の記憶を手繰る 

 

ワークショップの様子
ワークショップの様子

 実施にあたっては、旧街道沿いにある「かみしもお休み処」を拠点に活動する「かみしも結いの会」の皆さんの協力を得た。現在は、線路をはさんで反対側に国道4号線のバイパスが走っているが、これが開通するまではこちらがメインストリートであった。周辺で聞き取り調査をしていると、多くの住民がかつてのまちの賑わいについて語る。

 

「今はシャッターの閉まっているお店がほとんどだけど、昔はこの通りだけであらゆる用事を済ませることができた」「お菓子から文具、花火までなんでも売っている駄菓子屋があって小さい頃はよくそこで遊んだ」「現在の役所がある場所に小学校があった」……語り始めるとエピソードは尽きない。

 

 実際のワークショップでは、かつて住んでいた家の記憶を辿りながら、小さな家をつくっていく。まずは、占部さんの手法に倣い、洋書を切り取った紙に鉛筆でドローイングをしたためる。白い紙とは異なり、これはこれで味がある。

 

 続いてこのドローイングをもとに立体におこしていく。当初はそれぞれの持ち寄ったものやまちで拾ったものなどを使うことも検討していたが、今回は箱をベースに製作することにした。「工作をするのは小学校以来だからウン十年ぶり」などと口々に語りつつ、いざ始まると華麗な手さばき。

箱を組み合わせて家をつくる
箱を組み合わせて家をつくる
水彩絵の具などで着彩
水彩絵の具などで着彩

 

 家の形もいろいろだ。かつて、茅葺き屋根のお家に住んでいた参加者は、当時の様子を思い出しながら片面波段ボールで屋根をこしらえる。寄棟造の形にする方法を占部さんに尋ねながら家づくりを進めていた。

屋根の形を検討中
屋根の形を検討中
茅葺き屋根を塗装中
茅葺き屋根を塗装中

 

通り沿いに店舗を構える衣料品店「マルキク商店」は、切妻の三角屋根に大きな丸で囲まれた菊の文字が特徴的だ。かつて呉服屋さんだった頃の記憶を辿りながら、内装にもこだわりを見せる。細かい作業はサポーターとして参加していた大学生に発注。

「マルキク商店」の内装
「マルキク商店」の内装
細かい作業は大学生に発注
細かい作業は大学生に発注

 家族が大工さんだったという参加者は、自前で建てた家の記憶を辿る。家族が増えたことで建て増しもしていたようで、二つの箱を連結させていた。緑色の屋根の上には、雪国ならではの構造物である雪止めもリズミカルに並ぶ。

雪止めを装着
雪止めを装着

  あるいは、記憶の中にとどまらず、未来に向けて理想の家を造形する参加者も。同じく通り沿いに店舗を構える「メルシー田中屋」は、ドーム型の屋根をしたファンシーな店舗を構想していた。

「メルシー田中屋」のドローイング
「メルシー田中屋」のドローイング

 

 

マイ・スヰートホーム・タウン

 

相互鑑賞の様子
相互鑑賞の様子

 こうして4時間にわたるワークショップを通して、想いの詰まった「家の記憶」が形にあわされていった。金ケ崎芸術大学校の活動を始めて5年になるが、これまで本当の意味での地元の方々が参加する機会はほとんどなかった。ご高齢の方が多いため、感染症への不安があったこともあるが、それ以上に「芸術」という言葉の持つ見えざるハードルもあったのかもしれない。

 

 今回のワークショップでも、最初は「何をするかよくわからない」と訝しがる様子も見られたが、いざ活動が終わってみると「昔のことを思い出しながらあっという間に時間が過ぎた」と充実したご様子。「実は、こんなものも用意していたんだけど」と昔のマッチ箱を披露していただいた参加者もいた。店舗の名前が印刷されていて趣深い。これもまた、次なる材料になりそうだ。

 

 最後に、それぞれの作品を並べて鑑賞の時間を設けた。改めて完成した家々を見てみると、まさに純度100%でこの地から生まれた作品となっており、文字通りの「スヰートホーム」だ。それらが連なる様子は、まさに小さなまちのようだった。屋根の上から眺めたり、家の中をのぞいたり、思い出話に花が咲く。

 

 ちなみに、今回のワークショップの成果物は、「城内農民芸術祭2023」において占部さんの作品とあわせて展示される。先ほど挙げた「マルキク商店」や「メルシー田中屋」もサテライト会場となる。この機会に、ぜひともまちを歩きながら「スヰートホーム・タウン」を体感していただきたい。

「スヰートホーム」を並べて鑑賞
「スヰートホーム」を並べて鑑賞

 

 

インフォメーション

 


 

城内農民芸術祭2023「家の記憶を手繰るために」

期間 2023年10月21日(土)~12月10日(日)

 

会場 旧菅原家(旧狩野家)侍住宅、土合丁旧大沼家侍住宅、和洋食道Ecru、かみしもお休み処、旧坂本家侍住宅、マルキク商店、メルシー田中屋

[みる]

 

・占部史人「マイ・スヰートホーム・タウン」

廃材などを用いた作品を侍住宅の土間や座敷で展示します。商店街では、今回のワークショップで製作した作品も展示されます。

 

会期 10月21日(土)~12月10日(日)

会場 土合丁旧大沼家侍住宅、かみしもお休み処、マルキク商店、メルシー田中屋

 

 

・村山修二郎「笑鹿島様―家を守る―」

植物をテーマに表現活動を行う村山さんによる野外展示。今回は、旧菅原家(旧狩野家)侍住宅の庭に大きな鹿島様が登場します。

 

会期 10月28日(土)~12月10日(日)

会場 旧菅原家(旧狩野家)侍住宅庭園

 

 

 ・城山萌々「床の間版画展」

版画家の城山さんによる作品を和洋食道Ecruの大きな床の間に展示します。おいしいお食事と合わせてお楽しみください。

 

会期 10月21日(土)~12月10日(日)

会場 和洋食道Ecru

[かかわる]

 

・生活者工房+千葉農園「ハニワングランプリ2023」

金ケ崎町内で採取した粘土を使ってハニワをつくります。期間中に、町内の農家で野焼きを行い、その様子をパブリック・ビューイングします。

 

日時 10月26日(日)18時~21時頃

PV会場 旧菅原家(旧狩野家)侍住宅

 

 

・ワカツキ模型「世界に一つだけのお庭」

金ケ崎芸術大学校内に店舗を構えるワカツキ模型によるジオラマ製作ワークショップ。お庭を眺めながら小さなお庭をつくります。

 

日時 10月29日(日)11時~14時

会場 旧菅原家(旧狩野家)侍住宅

参加費 500円(作品を展示する場合は無料)

 

 

・金ケ崎ねぶた部「ねぶた構想ミーティング」

来年から始まるねぶたづくりプロジェクトに向けたキックオフミーティング。まずは、モチーフを検討します。

 

日時 11月26日(日)11時~14時

会場 旧菅原家(旧狩野家)侍住宅

 

 

・たびゆき商店「型板ガラスツアー」

昭和建築に多く見られる型板ガラスを巡りながら家の記憶を擦りだします。特製の型板ガラスクリアファイルのおみやげ付きです。

 

日時 11月26日(日)14時~15時30分

会場 旧菅原家(旧狩野家)侍住宅

 

参加費 500円(おみやげ付き)


 

お問い合わせ先

金ケ崎芸術大学校

〒029-4503 岩手県胆沢郡金ケ崎町西根表小路9-2

電話:080-7225-1926(担当:市川)

 

メール:kanegasakiartcollege@gmail.com

 

図工のあるまち

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