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Phase032:コトをうむモノ

みなさん、あけましておめでとうございます。

年明けに発生した能登地方の地震について、ニュースから流れてくる信じられない映像を目の当たりにし、罹災された方々の皆様の状況を拝察して言葉をなくしました。

一日も早い平穏が訪れることをお祈りし、私にできることを考えたいと思います。

 

さて、今年初めてとなる今回は、私が所属する科学館で製作した新しいパンフレットと名刺についてご紹介をしたいと思います。

 

 

最初の打合せは、夢を語っただけだった

 

①

新しいパンフレットと名刺を製作してくれたのは、日本文教出版「工芸」の教科書のデザインでもおなじみの、direction Qさん。

代表の大西さんとデザイナーの清水さんとは、私が以前所属していた美術館からのご縁です。

 

私は、最初の打ち合わせのときから特に具体的なリクエストをせず、むしろお二人のクリエイションにお任せしたいと考えていました。もちろん、予算の制約はあるものの、クリエイションに対しては一切の制限をなくし、新しい表現の可能性を追求したかったのです。

これは大西さんたちのこれまでの仕事に対する絶対的な信頼とともに、お二人がどのように私たちの科学館を表現してくれるのか、大いなる期待を抱いていたからです。

 

また、私自身は着任以来、「この館の現状」という環境を素材として、そのポテンシャルを引き出し、新しい教育科学館像の可能性を提示し続けることを考え続けてきていました。そのため、完成するパンフレットと名刺が、そのまま、館運営に対して違った視点からの大きなヒントになるのではないか、という期待もあったように思います。

 

そんな思いもあり、キックオフのミーティングでは、一般的な科学館という存在に対する私の考えや、「人を展示する科学館」という当館のコンセプト(詳細はPhase013:「教えてもらう科学館」から「気づきをもたらす科学館」へを参照のこと)、今後我々が果たしていきたい役割、更には私の夢までを、じっくりお話ししただけの時間になりました。このとき、大西さんから「なによりまずは科学館に行かなくちゃ」と何度もおっしゃっていただき、実際大変お忙しいにもかかわらず驚くほど即座に(たしかミーティングの2、3日後だったような気が)ご来館いただいたことが、とてもうれしい驚きとともに強く印象に残っています。

 

 

単に「視覚化」ではない、視覚を通した「追体験化」

 

そんなこんなで紆余曲折を経て完成した今回のパンフ&名刺。

先にできあがってきたパンフレットを初めて手に取ったときのことは、私にとって驚きともいえる体験で、今でも忘れられません。

 

新しいパンフレットは、館にあるものの写真がランダムに配され、その集合体が特殊な形になって切り取られています。背景にはビビッドな原色が使用されていて、特徴的な形の吹き出しによって館内イベントの様子の写真も掲載されています。

②
③

 

パンフレットとはそもそも、開館時間や料金、展示物情報など、必要な情報をきれいに整理して、伝えるためのものです。

たしかにこのパンフレットでも、その機能的条件は満たされていますが、私が驚いたのは、その手前の体験についてでした。

このパンフレットを見つけ、手に取ったとき、書いてある内容を理解する前に瞬間的に感じたことは、館長着任のオファーを頂戴し、それをお受けするかどうか考えていた一昨年3月に初めて科学館を訪れたときの(つまり私が最もお客さんの感覚に近かったときの)空気感や驚き、困惑にも似た気持ち、少し時間をおいて安心のあとに訪れるワクワク感などの「あの感じ」だったのです。

 

これは私にとって、情報を整理して視覚化した、というものにとどまらず、まさに「教育科学館の追体験」そのものだったのです。

こんなに追体験できるなら、もう来館いただく必要すら無いじゃないか!とはさすがに言いませんが(笑)。

 

 

モノがコトを生む

 

先日、当館で行っている私のワークショップに、いつもは本人だけで来る常連の少年が、お母さんと一緒に参加されました。

「今日はお母様も一緒なんですね」と話しかけると、「この前、息子に初めてプログラミングワークショップの内容を聞いて、面白そうなので一緒に来てみたんです」とのこと。

聞けば、こんなことがあったそうです。

①前回WS参加時に、少年が新パンフレットを見つけ、「なんか欲しくなったから(本人談)」持って帰る

 ↓

②帰って、食卓におきっぱ(でもテーブルで存在を主張していた(お母様談))

 ↓

③お母さんが見つけて、不思議なモノだったので「なにこれ?」と少年に尋ねる

 ↓

④その日のワークショップでの出来事を話す

 ↓

⑤お母さんもおもしろそうと思う

 ↓

⑥いっしょに来館

これまで少年は、何度もWSに参加していました。

そのときはお母さんは、少年から保護者も一緒に参加することが多いことは聞いていたそうなのですが、「プログラミングは全然わからないしちょっと怖いから、息子だけ行ってくればいいや」と思っていたそうなのですが上記のやりとりがによって、参加してくださったのです。

①~⑥の中に、このパンフレットのさまざまな要素が重なって、ご家族のコミュニケーションに効果的に作用したことがよくわかる事例だと思います。

 

 

コミュニケーションを引き出すために

 

新しい名刺もご紹介します。

 

これは、各スタッフごとにデザインが異なります。

スタッフが提出した顔写真や好きなモノなどの項目をもとに、イラストレーター・WAN_TANさんがそれぞれオリジナルのキャラクターを製作。

更に、各スタッフの手書きで得意なことなどが書かれています。

しかも、運が良ければ、レアなキラキラバージョンがあたる可能性があります。

 

コンセプトは「集めたくなる名刺」です。

たとえば、プログラミングのワークショップのリピーターの参加者は、講師である私とは親しくなりますが、ほかの分野のスタッフ(たとえば実験担当のスタッフとか、天文担当のスタッフとか)とじっくり話す機会を自分から作ることがあまりないのが現状です。

これは、「新しい学びとの出合いを、人との出会いで演出する」とする当館としてはなんとかしたいポイントでした。

そこで、この名刺の出番です。

スタッフはこの名刺を常に持っていますので、コンプリートしたければ、館内の様々なスタッフに話しかける必要があります。

なんのきっかけもなく人に話しかけるのは困難を伴いますが、なにかを集めるために話しかけるのであれば、ハードルがぐんと下がるものです。

 

こちらは、配布からまだ数か月しかたっていませんので、まだあまり世間に存在を知られていませんが、すでにノーマルバージョンを何枚もコレクションしている子どもたちが何人かいます。

 

オリジナルのコレクションファイルとかつくったらよさそうかな。

 

④
⑤

また、私自身の経験としてこんなことも。

通常のビジネスの場でも我々はこの名刺を使用しているのですが、そのほとんどすべての機会でお相手の方から「これはどういうものなんですか?」とご質問いただきます。

そうすると、「人を展示する科学館」という当館のコンセプトや想いについて、自然にお話しさせていただける機会となり、私たちの立場をご理解いただけるため、その後の打合せが大変スムーズになりました。

 

優れた企みが綿密に施されたモノは、手にした人の気持ちを動かして主体的な行動を生み、新たなコミュニケーションをもたらしはじめています。

今回のパンフレットや名刺によって、実際に手に取ってみて、身体を通して受け取る情報に敏感になる事の大事さを、改めて強く考えさせられました。

魅力的なデザインをしてくださった大西さん、清水さん、本当にありがとうございました。

皆さんもぜひ、実際に当館に来て手に取ってみてくださいね!

目指せコンプリート!

 

⑥

【板橋区立教育科学館 総合パンフレット・名刺】

Illustration: WAN_TAN 

Photo: 栗原諭 

Printing: 株式会社ファビオ 

Design: 清水真実(direction Q)

Art Direction: 大西隆介(direction Q)

画像提供(①~⑤):direction Q 

 

 

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Author:清水輝大(しみずてるひろ)
1983年、北海道生まれ。
板橋区立教育科学館館長、ラーニングデザインファームUSOMUSO代表、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所教育共創ラボ研究員。
青森県立美術館、はこだてみらい館、八戸ポータルミュージアムはっち、ソニー・グローバルエデュケーションなどを経て、現職。
図工美術教育の手法を援用し、創造的なSTEAM教育、プログラミング教育、探究学習などの実践研究を行う。